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クルクルクル
「きゃあ〜っ楽しい〜」
クルクルクルクルクルクル
カップ型のカートに乗った美咲と遥は、クルクルと回転している。ハンドルを握るのは美咲で遥は少し酔ったみたいで目を回していた。
「もっと回せ回せ〜!」
「まかせろ−い!!」
ぐわんぐわん、とその横のカップで泰司がもの凄い勢いでハンドルを回し、良之助は高笑いをしながら楽しんでいる。俺と光は向かいにあるベンチに座り、そんな四人の様子を眺めていた。
3Dのアトラクションや、子供向けの可愛らしいジェットコースター、ミュージカル…確かに沢山回ったがほぼ全てが美咲が希望するモノであった。俺達が楽しみとする絶叫系のアトラクションは断固拒否され、押し抜ける事も出来ずで、常々女に弱い男共である。
しかし、折角長旅をして来たのに…そう思って次のアトラクションはこのテーマパークの名物、恐怖の館絶叫コースターに乗る事を提案した。
「おう!行こうぜ行こうぜ!それ一番乗りたかったんだよな〜!」
泰司も良之助も、気分は既にジェットコースターなのだが、案の定美咲は断固して拒否してきた。
「みんな行くし、行こうよ美咲?」
「私行かない。絶対やだ」
「僕、乗りたいし行くよ?」
「私一人にするの!?」
すると、光はしょうがないと頭を掻きながら話し出す。
「じゃあ俺一緒に残るよ、遥ちゃん行っておいでよ」
「遥じゃないと嫌」
「そうですか、」
これは困ったお姫様だ。一同首を傾げる。
「…わかった、僕残るから…。すみません、虎さん達で行ってきて下さい」
「え、遥もこれ楽しみにしてたんだろ」
俺の問いに遥は眉をひそめて笑顔をした。
「…終わったらすぐ戻るから」
「はい、楽しんできて下さいね!」
それ以上何も言わず、俺達はジェットコースターへと向う。
そうだよな、遥にとって美咲ちゃんは彼女でやっぱり優先される「特別な存在」なんだよな…。当たり前の事なんだけどね…
入り口に向かうと、かなりの行列が出来ていて一時間以上かかると看板が立っている。「そんなに待ってられない」と諦めようとした時、光はポケットから六枚のチケットを取り出し、その内三枚を俺達に手渡してきた。
「優先チケット取るのは当たり前だろ」
「さ、さすが光…」
その優先チケットのお陰で、ものの僅か30分で目的のジェットコースターに座る事が出来た。
遥と一緒に乗りたかったな−…
ビィーーー
《眼鏡、荷物等は係員にお預け下さい。間もなく発車致します…》
アナウンスから数秒、ガタンガタンと言う車輪の音と共に車体が動き始めた。
◇◆◇
「やぁ−ばい!超楽しかった!」
「もう一回乗りてぇ〜!」
噂通りの興奮も味わえ更に想像以上のスリルも感じる事も出来、俺達は高揚した気持ちのまま遥達の元へと戻った。
すると携帯から着信を知らせるバイブが鳴り、ポケットから取り出すと遥からの一通のメール。
「近くのショップでお土産見てるだと、」
そうメールの内容を説明し、見渡すやすぐ場所を把握してから、遥の元へと向かった。
「あ、虎さーんこっちです!」
「おう。待たせて悪かったな」
「いえ!大丈夫ですよ。お土産も買えたし、ほら。」
そう言って両手にぶら下げた紙袋を持ち上げて、にかっと笑顔を向けられる。俺も吊られてフッと笑うと、遥は一瞬目を丸くしてまた笑いかけてくれた。
「?」
俺が笑ったのにびっくりしたのか?でもしょっちゅう笑ってるよなぁ…気になったが、あえてそのまま聞かず遥の持つ紙袋を代わりに持った。
「美咲ちゃんは?」
光が周りを見渡しながら問いかけてくる。
「それが、途中ではぐれちゃったんですよ。このショップかなり広いし、中々探せなくて」
すると、光はニタッと笑い先程のチケットを二枚遥に手渡した。
「今のうちに行っておいで。美咲ちゃんは俺達で探すから、チケット二枚あるし虎も一緒にな」
「え!でも、そんな悪いです!」
「いーからいーから!早く行っておいで!」
チラッと困った視線を向けられたが、遥がこれを一番楽しみにしていたのを知っている。きっとこの視線は俺の言葉を待っているのだろう。それに遥と今日初めての二人っきりは見逃せない。
「ジェットコースター、行こっか」
「は、はい!」
荷物を光に預け、気持ち足早にジェットコースターの入り口へと向かった。
優先チケットを提示すると、あと三十分程で乗れると言う。それまで列に並び待つ。
「虎さん、今日本当に迷惑ばかりかけてすみません…」
え?と、横にいる遥を見ると何とも悲しげな表情をしていた。
「美咲、いつもはあんなんじゃないんです。でも何で今日に限ってワガママばっかり言うんだろ…」
あぁ、そうか…。
あの子は俺に近づけないようにと、必死になって遥をガードしているが、遥からすればただのワガママになってしまっているんだな。大好きな遥の為に、必死になって。
「遥…」
「はい、?」
「ひとりで、乗れるか?俺戻るよ」
「え!どうしてですか!?」
どうしてって…あの子が必死で守ろうとする恋を、俺は壊そうとしているんだ。あの子だけじゃない、遥だって美咲ちゃんが好きな訳で…遥まで傷付けたくないんだよ…
苦い想いを巡らせたままこの場を立ち去ろうとすると、グッと服を引っ張られて腕にしがみつかれてしまった。
「はははっははるっ」
動揺をまるで隠せていない俺の腕をぎゅぅ、握り絞められたまま遥は動こうとしない。
「行かないで下さい…!虎さんと一緒に乗りたいんですっ!」
更に締め付ける力は必死に逃げないでと言われているようで、心が締め付けられる程に愛おしく感じてしまった。
ああ、抱き締めたい、抱き締めて苦しい程のキスをして心をほぐしてやりたい。…なんて不謹慎な妄想は伏せとくとして。
「ごめん、俺も一緒に居るから。もう行かないよ」
ポンッと遥の頭に手を置き、柔らかな髪を撫でた。触れるだけって言うのは、こんなにも愛おしくて苦しいんだな…。
すると、遥はいきなり体を引き離して、俯いたまま耳を赤くしていた。
「すすすすすみません!公衆の面前で僕…っ」
本当、可愛いなぁ遥は。
クスクスっと笑ってしまい、更に遥は茹で蛸如く真っ赤に染まってしまう。
「これで悩んでた事リセット出来たな」
「え?」
「いーや何も。お、もうすぐ順番だぞ」
待ちに待ったお楽しみ。幸せな気分を乗せて恐怖の絶叫コースターは走り出した。
一方、ショップでは。
「もー!遥どこなのー!」
お土産の商品をカゴ一杯に詰め、見つかる筈のない遥を探し回る美咲。
「お−い、美咲ちゃ−ん」
「どこだぁ〜?」
「くそ、あんな女探すの止めようぜ!」
三人も中々美咲の元へは辿り着けなかった。
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