26
乗車時間は何とかギリギリと言った所で、乗って座席に着くも間もなく新幹線はゆっくりと走り出した。
微かに揺れる新幹線内で向かい合う四つの席に通路を挟み、更に並んだ席へと腰を下ろす。窓際から俺、光、向かいに良之助が座り、通路側の座席には窓際から美咲、遥、向かいに泰司と振り分けられた。
本当は遥と並んで座る筈だったが、今は余り視界に入れたくない…そう思うであろう気持ちに配慮して光が振り分けたのだ。泰司はすっかり可愛い美咲に当てられて忘れているようだが。
俺はじっと窓の外の流れる景色を見ながら黙り込む。そんな俺を見てか、実はまだ一度も目線すら合わしていない俺の機嫌の悪さに遥は気が気でないようだ。
気遣って話し掛けてくれようとしているのか席から腰を上げるが、直ぐ様美咲に塞がれるの繰返し。
それから暫くそわそわと体を揺らしては、泰司に貰った缶コーヒーを包み込むように握りしめて遥は考えた。
…虎さんが怒っているのにはきっと自分に原因がある。遅刻はするし五人で約束してたのに美咲も…黙って連れてきたし…。
虎さんと話せないなんて、なんか…辛い…
美咲は泰司と良之助と三人で賑やかに会話をする。しかし、美咲もまた気にかける視線は、遥と虎であった。
◇◆◇
『桜宮ー桜宮ー。お降りの方は…』
それから3時間。
短いようで長い旅は終わり、いよいよ目的のテーマパークへと到着する。
大きなゲートを抜け一同は一旦立ち止まった。既にチケットは購入しているのだが急遽参加の美咲のチケットはないのだ。
勿論、美咲は遥の手を引きチケット売り場へと向かおうとするが、それを光は阻止した。
「美咲ちゃん、良之助と行ってきて」
そう言って半ば強引に遥の腕を引きこちら側へと寄せる。美咲は、なんで?と引き離され不安と言った表情で光を見る、いや睨むと言うのか。
そんな美咲を見て、光は「あぁ、やっぱり」と、何かを悟った。
「いや、今回みんなの分良之助出してるから、美咲ちゃんの分もこいつが払うよ」
「はぁ!?何で俺が」
「いいから行け」
俺と遥に軽く視線をやり、気を使えと訴えた。やっとと言うか、良之助も感づく。
「美咲ちゃん行こうー」
「え、私自分で出すから…」
「いいのいいの!俺のおごり!」
「ちょっちょっと…!」
まだ遥と離れようとしない美咲に、良之助は強引にチケット売り場へと連れて行った。人だかりも多く購入に時間かかると予測もして、ここで無理矢理にでも時間を作ってくれたようだ。さすが光と言うべきか。それはただ大切な友の為だ。
「ほら、虎と話しておいで」
ぽそっと遥に耳打ちし、ありがとうと小さな声で呟くと、後ろの方でベンチに腰を降ろしていた俺の前で足を止めた。
ぽけーとしていた為不意に出来た影を見上げて、それが遥だと確認すると何故か目線をどこにやっていいのか判らず、地面を泳がせてしまった。
「虎さん…。美咲、連れてきてごめんなさい…」
まさかの謝罪に「気を使わせてしまった」と、あたふたと気持ちを泡立てる。
「違う、ただ眠いだけだから…気にすんな?」
ああ、見苦し言い訳だが仕方がない。自分の好きな相手が他の人と仲良くしているのを見て…ヤキモチを焼いただなんて、言える訳がないのだ。
遥は半分納得いっていない様子だったが、遅刻した事等も事実なのでとまた頭を下げて謝ってきた。
俺は必死に「眠いだけだから!本当眠い!」と言ったが、遥も譲らず頭を下げてくるわで、何とも間抜けなやり取りに可笑しくなってきてしまった。
「ははっ、本当怒ってないから、ね?」
遥も同じ事を思っていたのか、軽くはにかんだように笑い返してきた。
「はい…わかりました。じゃあ沢山一緒に楽しみましょうね?僕、乗りたいのが一杯あるんです!」
「おう楽しもうな!よーし、気分乗ってきた、おら行くぞお前ら」
さっきまでの暗い思いはどこへやら、遥パワーですっかり持ち替えした俺は勢いよく立ち上がり遥の腕を握りしめて入場口へと向かった。
「…あ」
遥は握られた腕を落ち着かない様子で見つめる。
…虎さんって、手大きいな……暖かい…
「ちょっと待て虎、まだ良之助達が」
「いいじゃん先行こうぜ!俺もなんか面白くなってきた♪」
「泰司、お前まで…」
「先に入る」と良之助へメールだけして、光と泰司も後を追うように入場口へと駆け出した。
←(26/49p)→
〔しおりをはさむ〕