25「接触」
◇◆◇
翌日の待ちに待った土曜日。
朝八時、サラリーマンなどが行き交う駅の前で虎達は待ち合わせをしていた。太陽は暖かく昇っていたが、肌には風が冷たく感じる。
「眠い〜」
泰司は大きな欠伸をし、目覚ましにと買った缶コーヒーを片手に座り込む。
「どうせ朝までゲームしてて寝不足なんだろ」
光も同じく欠伸をし、壁にもたれかかった。
「光も欠伸してんじゃん」
「俺は遊んでんじゃなく、家の手伝いしてたんだよ。本間人使い荒いんだよアイツら、まったく。」
光の実家は自営業で様々なサロンを経営している。手伝わされるなんてよくある事だ。
「てか俺のカードまた知らねぇ間に使いやがって、カード代金払うの俺なんだからな!?」
「いいじゃねぇか、親父社長なんだし?」
「そうだけど、それとこれは別で支払い俺の口座から抜かれんの!支払ってるのはオっレっ!」
蛇とマングースみたいに、良之助と泰司は朝から言い合いが始まった。光と俺は仲介にも入らず知らんぷりだ。眠い朝、放置に限る。
「…それより遥遅いな」
ちらりと腕時計を見て辺りを見渡す。しかし一向に遥の姿が現れない。
「遅刻なんて珍しいよなぁ」
光の言う通り、何事にもキチンとしている遥が遅刻だなんて結構な一大事並みだったりする。
時刻も十五分を過ぎ、乗車時間まで半分を切ってしまった。携帯にも電話してみるがコールが鳴り響くだけである。
チッチッ…
時計が針を刻みながら一秒一分と過ぎ、まだか…まだか…そんな気持ちだけが胸の中を渦巻く。すると、こちらに向かって駆けてくる影が見えた。それは、小さく見慣れた影。
来た!
そう思って満面の笑みを浮かべて、両腕で抱きかかえる気持ちで迎え入れる。だが、次の瞬間俺の心は凍った。
「ちょっと待って遥!」
朝の雑踏に紛れて、微かに聞き慣れない声が響いてくる。
「もうちょっとゆっくり走ってよ〜」
「駄目だよ、みんな待ってるんだから早く!」
お互いに手を引き合いくっきりと姿を現した。カラーパンツにTシャツを着て、アウターを羽織った遥の後ろには、ヒラヒラと短めのスカートを履き、髪を綺麗になびかせた…美咲がいる。
徐々に近付き大きく呼吸を繰り返しながら、二人は俺達の目の前で静止した。
「ご、ごめんねみんな。遅くなっちゃった…、」
途切れ途切れに声を出す遥に、光達は口々に「大丈夫だから、」と言ったが、その目線は美咲に向けられていた。
その意味は「誰?」だ。明らかな招かねざる客に俺は眉をしかめた。
座り込んでいた泰司も立ち上がり美咲をまじまじと見つめる。美咲はニコッと微笑んで口を開いた。
「遥の彼女の美咲です!私も一緒に行きたくて着いてきちゃったぁ、ご一緒してもいいですか?」
可愛らしく小首を傾げては、ふんわりとやわらかな笑顔を魅せた。泰司に並び良之助も光もその悩殺に胸を弾ませたが、それよりも遥に彼女が居る事は知っているも、こう目の当たりにすると…驚きを隠せなかったようだ。
「虎さんこんにちは!久しぶりです〜」
「…ああ、久しぶり…」
美咲に話しかけられ、どもる口を必死に開き返答する。視線を合わせるのすら億劫になり直ぐ様背を向けた。
そのまま改札口を通りホームに出て、泰司と良之助が先に新幹線内へと入って行く。その後を追って入り口の扉に足をかけた美咲は、後方にまだ居る虎を気にして中々進もうとしない遥の手を強引に引いた。
「何してるの、早く行こう。みんな先に行ってるよ!」
「う、うん…」
重い足取りで光と並び歩き、続いて新幹線の入り口に脚を踏み入れる。
きっと今の俺は酷い顔をしている…。
…なんで
なんで彼女も一緒なんだ?
ただそれだけが頭の中を巡っていた。
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