23「計画」
気付けば十一月の中旬を過ぎていた。そんなとある木曜日。
「ここどう?」
泰司は開かれたテーマパーク雑誌の一部を指差し反応を伺っていた。光は首を傾げ無言の返事をする。
「じゃあ〜これとか、」
「無理、泰司が選ぶの変なのばっか」
光は反論を言いポッキーを一本口にくわえた。俺と遥はゲームに熱中で、五畳半のフローリングの俺の部屋にいつもの男達五人は集まっていた。端から見れば何ともむさ苦しい図だろう、実際デカイ男が箱詰めされているのと対して変わりない。
明後日の土曜日、みんなで遠出しようと究極決まり何処へ行こうかと言う話し合いである。発案者の良之助は俺の布団でよだれ垂らして爆睡中だ。
チュドーン
テララァ〜ン♪
なんとも悲しげなBGMがテレビから流れ出て、俺の敗北を知らせた。まだ数える程しか遥に勝てず今日もまた敗者の刻印を押される。
「…いい"お友達"だコト」
光は俺達には聞こえない程度に小さく呟いた。泰司もページをめくる手を止めて俺達を見入る。
と同時に泰司、光からは情けないよと言わんばかりのため息が漏れた。
テララァ〜ン♪
「よっしゃあ!勝ったぁ!」
「え−!今の反則だよー」
本気で嬉しかったのか、歓喜の余り立ち上がって万歳をすると、ふと背後に視線を感じ振り返る。
「何?」
非常に冷たい泰司と光の視線。
「べっつにぃー」
そう声を揃えて言うと、また作業に戻るかのように雑誌に向き合った。
判るよ、判るよお前らが言いたい事は、さっきの溜め息だって聞こえていたさ!
あの初めてのお宅デート以来何一つとして進展ございませんよ確かに。
でも、近頃の俺は遥に告げる自信がすっかり無くなってしまったんだ。今の関係で隣に居てくれる遥に満足しちゃってるんだ、側にいるだけの今に。
そして一番の理由は…もし告げて嫌悪感を向けられる事におじけついてしまうのだ。関係が崩れるのが非常に怖い。
だからかな…、気持ちにセーブ掛けてしまってるのは。
「はいはい、お二人さん。一旦ゲーム中断して一緒に明後日の事考えて」
光は俺が一瞬考え込んだのを察したのか、こちらに来るように手招きをする。電源を切りテーブルの空いたスペースに座った。
「決めたのか?」
「いいや。何個か候補は決めたけど…」
光は開かれたページの二、三個を指差す。そこには定番の映画館、遊園地、動物園だった。
「う−ん、ありきたりだなぁ、やっぱ」
「そうなんだよねぇ。でも他に思いつかない」
あぐらを掻いていた足を立て泰司の持つ雑誌のページを捲る。でもこれと目星が付くものがない。海はもう寒いし15分100円でなんちゃらの所も飽きたし…。
「だからって男5人で映画館ってのもな…、」
「動物園もないだろ。猿見て感動すっか?わぁペリカンだぁ!ってトキメクか」
「なんだそれ」
つまらない事を面白げに言った泰司はうなだれて床に倒れ込んでしまった。光は携帯ゲームを始めている。お前ら、てか特に光真面目にしろよ。すると遥が一カ所を指差した。
「僕、ここ行きたいかも」
その指の先にある巻頭一面に特集されていたのは、去年開園したばかりのテーマパークであった。距離は県外で少し離れているだ、男5人で行っても……楽しめるかもな。
光と泰司もページを覗き込む。
「そうだな−…、いいかも」
「俺もちょっと気になってた〜!」
「じゃあ、決まり?」
四人は顔を見合わせて笑顔を見せる。それは決定を頷ける笑顔だった。
「でも、ちょっと遠いでよね?どうやって行きます?」
実際その距離に選択肢から外していたのだ、その遥の問いに光がおもむろに立ち上がって爆睡している良之助のジーンズのポケットから財布を抜きだした。カード入れから取り出されたのは一枚の…ブラックカード。
「爆睡してるコイツが悪い。」
悪魔にも似た不適な笑顔を浮かべ泰司も一緒ににやつく。俺はまたか…と頬を引きつらせて思った。…恐ろしい。
「ブラックカード、初めて見ました…」
遥は目を点にして、カードを見つめる。実は良之助の親は結構なお金持ち一家であったりする訳で。まぁ無理もない、当のお坊ちゃまはヨダレを垂らしていびきをかいておられますから。
こうして、目的地もやっとこさ決まり各々明後日に向けて準備を始めた。
光は遊園地のチケットを取るのにちょっとでも安くと割引情報の回収にパソコンを開いている。
俺と遥は新幹線の切符予約。と言っても遥が電話をする横でボーっとしているだけだが。
泰司は…いつの間にか良之助と並んでいびきをかいていた。
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