20「ふたりきり」

翌日。天候は生憎の雨で傘を差していても下半身が雨水で濡れてしまう始末だった。
今は六限目の化学の授業中。担任でもある森先は、不思議な記号を黒板に書き並べている。不思議というかただ単に覚えていないだけなのだが。
実験器具のフラスコをクルクルと回しながら、グループに分けられた大きな机に頬杖を着いた。

「はあー…」

口からは溜め息ばかりが洩れてしまう。結局考えずにはいられなくて、何をして遊べばいいかひたすら悩んだがいいアイデアは浮かんでこなかった。遥と部屋でどうしろというのか。ゲーム?トランプ?トランプはないか…。
そこで、隣に座る光に相談してみる事にした。泰司や良之助の回答など期待はしていないので、ここは冷静沈着な光が適任だろう。

「なあ、光」

ひとまず授業中なのでトーンを下げて声をかける。光は黒板をノートに写す手を止め振り返り「なに?」と視線で返事をした。

「あのな、お前だったら友達と部屋で何するよ?」

その問いかけに、あぁ遥ちゃんと遊ぶのかと理解し、ペンをノートにコンコンともて遊びながら迷うことなく回答する。

「いつも通りでいいんじゃないの」
「いつも通り?」
「お−。俺らが遊ぶ時みたいに」

光はそう言うとまた黒板を見てはノートにペンを走らせていく。あの不可思議な記号の意味が分かるのだろうか、さすが学年十位なだけはある。
いつも通り…。確かにそうだ、別に彼氏彼女を招く訳でわないんだから特別な事をする必要なんてない。当たり前の事を見落としていたのか。

「そう、だよな。うん」

納得してなんだか気持ちが地に着いた気分になる。
気付けば授業も終わり、待ちに待った放課後が来た。俺は我先にと席を立ち一目散に廊下へと出る…つもりが、なぜか今良之助と泰司と光に囲まれている。やたらとにやつく三人。

「…どけよ。俺急いでんだけど」

弱冠嫌な予感がし、じりっと腰が退けてしまった。

「まぁまぁまぁ、」

そう行って良之助はポケットから手を出し、何かを俺のスラックスのポケットへと瞬時に仕舞う。
なんだぁ?と思いながら取り出して「何か」を確認すると、そこに現れたのは四角く真ん中には輪っかの形が浮き出たもの。言わずもがな正義の避妊道具、コンドーム。

「こっこれは!…ってオイ」

ぐしゃりとゴムを握りつぶし、良之助に一発食らわそうとしたら、お次は光と泰司から両手にわんさかとゴムがプレゼントされた。盛り盛りと盛られ受けきれなかったコンドームは床にひらひらと落ちてゆく。

「生はいけんぞ虎。何かあってからでは遅い」
「避妊はしっかりな!」

腕を組真剣に頷く良之助に続き泰司が親指を立ててそれだけ言い残すと、三人は一目散に逃げて行った。

「ちょっ、待てお前ら…!」

追いかけようとするが自分の両手と足元に散らばったコンドーム、クラスメイトに不審な視線を浴びせられている事に気づき、急いでバックに詰め込む。
はっ恥ずかしいっ!あいつらぜってぇ許さねえ!
一人せっせと詰め込み背を丸くして教室を後にするのであった。


◇◆◇

バチャバチャ

水溜まりを除けもせずに、一目散に神子橋へと向かう。スラックスの裾が泥でシミになってしまっていて、いつもは気にするも今そんな場合ではない。コンドーム事件のせいで変に時間を食ってしまったので、遥を待たしてるかもと降りしきる雨の中必死に走り続けた。
途中横を通り過ぎたトラックに更に泥水を浴びせられ、遥の元にたどり着いた時には全身何とも不様にドロドロだ。

「うわっ虎さん大丈夫ですか!?」

駆け寄る遥は急いで学生鞄の中からハンカチを出した。

「これで拭いて下さい、」
「まっ待て遥そこ危な…っ」
「え、うわぁ…!」

ズザァー…。遥はぬかるみに足を滑らせ、勢いよく前のめりで転倒してしまった。手元には舞い上がって落ちた遥の青い傘が転がる。

「は…はるか…?」
「……。」

問い掛けに応えるように顔をあげた遥は、まるでコントさながらの泥まみれだ。二人して泥まみれに可笑しくなり、俺は抑える事もせずに大きく笑った。

「あはっあはははは!」
「た…たいがさぁーん」

あぁもう、可愛いすぎだっての!
笑い涙を拭いながら、遥に手を指しのばし傘を拾い上げる。

「俺んち早く行こうぜ。これじゃあ風邪引いて共倒れだ」

そう言って遥の手を引く。はらっても意味がないので泥まみれのまま橋を渡ると、もう良いと言わんばかりにばしゃばしゃと水溜まりの上を遠慮なく歩いた。
握られた手のひらが異常に火照るが、さっきの出来事のおかげか気持ちに余裕を持てた気がする。横に並ぶ遥の顔をちらりと見て、鼻に付いた泥が何だか異様に可愛く見えてしまった。離さないと強く握りしめた手のひらの温もりを感じながら、いささかにたつく頬を我慢して家へと向かった。


(20/49p)
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