19

「あぁー文考えんのだけで体力使い果たした…」

10畳程のリビングにある黒いソファーに座り先程までにらめっこしていた携帯を横へとほり投げた。凝った右肩をぐりぐりと回す。

「虎兄ぃ風呂あいたー」

リビングの扉が開かれ頭にタオルを乗せた弟の豹吾が背後を通った。しかも豹柄のスウェットと言う名前通りのお姿。そのまま冷蔵庫を開け豪快に牛乳を飲む。

「おーう…」

俺はだるそうに頭をかき、重い腰を上げお風呂へに向かった。




ちゃぽん…


身長に合わないサイズの浴槽に足を曲げて湯船に浸かり、昇り立つ煙をボーっと見つめる。
2人っきり…。

「俺まじなに悩んでんだ?…誘ったけど何して遊べばいいか検討つかねぇ…」

ブクブクと鼻まで浸かり泡を出しながら頭までゆっくり浸かってゆく。まるで初めてお友達を我が家へ招くウキウキ小学生だ。いや、初めてには代りはないけどこんなにも「ただ遊ぶ」と言う事に悩んだ事も無かったので、殊更頭を悩ませた。
すると、湯気が充満する浴室内を見上げていてふと思い出す。

「メールのへへっ返事きてるかも!」

お誘いメールを送ったんだから、もちろん返事もあるはずだ。送るだけ送って満足してしまっていた。
急いで風呂から上がり体をちゃちゃっと拭いて、髪から滴を垂らしたままリビングへと気持ち早足で向かう。
リビングからテレビの音が聞こえるので、まだ豹吾が居るのだろう。

「豹吾俺の携帯鳴った?」

扉を開いたと同時に豹吾の姿を確認して聞く。

「うん。鳴ってたよ−」

ソファーの上で両膝を付いて、観もしないテレビを付けていた。左手にはアイスクリーム、右手には携帯を握られて。
っておい待て。それ俺の携帯じゃねぇか?
豹吾の後ろへ周り携帯を覗く。機種に色に形といい明らかに…

「それ俺の携帯じゃねぇか!」

勢いよく取り上げ、豹吾の頭にガツンと一発お見舞いした。画面を確認すると、そこには虎が送った送信メールが表示されている。今さっき頑張って作った遥宛てのメールを事もあろうにお遊戯大好きな豹吾に見られてしまった。

「次どんな子なの?」
「次って…。」

豹吾の余りの失礼な台詞にもう一発お見舞いしてやろうかと思ったが、自分の節操なしは自覚していたので我慢をした。
それにどんな子って性別同じなんだけどね。しかしそこは敢えて触れないでおこう。

「お前と同い年で天高の子だよ。」

すると、何に驚いたのか食べていたアイスを口から落としかけ、体をこちらに反転させ眼を輝かせた。

「てて天高って、あの美人秀才大和撫子が多いって噂の天高!?」

「お、おう。」

あぁ、そうだった。豹吾もこの兄して弟有りの、節操なしだった。

「うひゃ〜!あそこって俺らとレベル違いすぎてお近づきになった事すらねぇのに。さすが兄貴!」

なにがさすがだ何が。どいつもこいつも俺をたらしだヤリチンだ言いやがって。まあ、否定は出来ないが…。
でも、それは今までの話で俺は遥と出会って変わったんだ。そう、変わったんだ。

「それより、メール着てたけどいいの?誘った返事じゃねぇの?」

あ、やっぱこいつばっちり読んでやがったな。引きつった笑顔をわざとらしく見せて携帯の受信フォリダを開いた。案の定そこには遥からのメールがあった。未読マークのままなので閲覧まではしていなかったようだ。

「何て何て?」
「まだ見てないって」

何でお前がワクワクしてんだよ。横目で豹吾を見てからメールを確認する。目を通すと徐々に口元が緩くなってしまうのが分かって、誤魔化すように一息吐いた。

「来るんだ明日。」

本当に分かり易いと豹吾は可笑しそうに意地悪く微笑んで自室にとリビングを出ていく。
弟にまで見透かされている…なんだか兄の威厳としてゼロに等しい気が。
それよりも重要なのは明日の事。さあどうしうか。あ、とりあえずメールの返事をしなくては。
カチカチと「神子橋の上で」と文面を打ち込んで送信をする。
神子橋は俺達の間を流れる大河に掛けられた橋だ。その橋を挟みお互いに五分ともしない距離に自宅がある。まるで織姫と彦星だと思っている事は秘密だ。
出会って友達となってから以来の二人きり。でも俺達は男友達なんだ。ちゃんと"友達"を演じれよ、俺。
明日の事はまたその時考えればいいか、と結論を出しソファーに寝っ転がる。


ぺちゃっ


「ん?」

寝そべった後頭部から何か嫌な音がしそっと体を起こした。
そこには、…豹吾が落としたであろうアイスクリームの残骸が。

「あんのボケ…!」

もう一度風呂に入り直す羽目になったのであった。


(19/49p)
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