17「未距離」


その後1ヶ月。

とある日曜日。お天道様は曇り空で今にも夕立が訪れそうな昼下がり。15分100円で遊べる某テーマパークへと来ていた。メンバーは決まって俺、泰司、良之助、光。ただそこには楽しそうに混ざる遥の姿があった。

「だぁりゃ〜!!」
「負けるかぼけぇ!!」

泰司と良之助はお互いに道を一向に譲らない。遥の手にはリズムよく地面を跳ねるバスケットボール。

「あははっ光さんパス!」

スパンっと見事にパスを受け取った光は軽快にゴールに向かい駆けてゆく。そのまま軽く飛んで手から落ちるようにボールはネットの中へと吸い込まれた。シュッとボールと網が擦れる音がコート内に響く。

「ごーる」

俺はコートの端でつまらなそうにあぐらをかいては、常備されていたホワイトボードに点数を書く。2対10。光、遥チ−ムの圧勝である。その様子を見ていた遥が俺の前にしゃがみこんだ。

「虎さん、一緒にしなくていいんですか?」

少し汗ばんだ前髪を掻き分けて横へと軽く座る。並ぶ肩を意識するも顔も合わせず「俺はいいよ、」と断りを見せる。

「虎こう見えて運動音痴なんだよ、」
「嘘を吹き込むな!」

そう言って笑いながら光が俺を挟むように遥とは反対側へと腰を降ろした。良之助と泰司もゲームを終らしたのか、コートを挟んだ向かいのベンチで休憩していた。

「俺肩壊してるからボール系無理なんだわ。」

遥は思いもよらぬ告白に、えっ…と目を丸くした。少しその肩を見た後俺に気にかけるように視線を向ける。その瞳は何だか泣きそうだった。あぁ、他人の痛みを本気で受け入れる事が出来る子なんだと直感する。重そうに口を開き、何か言おうか言わないかとしてるのが伺える。

「そのどうして」
「そんな大それた事じゃないからさ。気にすんな」

そう遥の言葉を遮りニヒッと悪戯な笑顔を見せた。大体こんな事を聞かされた方が気分悪くなるだろう、俺自身も覚えてない内の事故の後遺症だから聞かれても答えられないのだ。どうしようもない。

「んじゃそろそろ次行きますか!」

泰司が立ち上がり続いて良之助、光達もコートを取り巻くフェンスの外へ歩いていく。

「うん…」

遥はその理由に触れてはいけないとは判ったが、僕には教えてくれないんだと寂しい気持ちになっていた。そんな遥の心の内など知るよしもなく、俺はただ遥と次は何して遊ぼうと考えていた。

俺達は初めて遊んだあの日以来、週に三度は遊んでいる。ゲームセンターへ行ったり、買い物や学校帰り寄れる場所なら大概は行った。しかし二人ではなくいつも五人一緒である。初めこそ不満であったが楽しそうにする遥を見てそれでも良いと今では思っている。今更2人にされるとどうしたらいいのか判らないと言うのが本音だったりもするが。
一通り遊びも終え満足したのでお店を出ると、遥が携帯を見て慌てて自転車を取りに走った。

「ごめんなさい!僕バイトだから先帰りますね!また連絡します!」
「お、おう。またな。」

出来るならずっと一緒に居たいがそんな訳にもいかない。悲しいがここは笑顔でまた明日。良之助は手を大きく振りながら「ばいば〜い」と挨拶をする。こうゆう時に素直な良之助を羨ましいと思った。
小さくなっていく遥の背中を見送り、遥がいないんじゃつまらんと帰ろうと決めた俺に光が「なぁ、」と声をかけてきた。
ん?とだけ返事をしポケットから煙草を出しくわえる。実は遥の前では吸わないと決めていたので結構苦しかったりした。

「遥ちゃんとこのままでいいのかよ」
「このままで、て?」

判りきった事を…と、光も同じく煙草を加えて俺の煙草からもらい火をする。

「俺らずっと五人じゃん二人で会わないのかよ?何も進展しねぇぞ、ただでさえ遥ちゃんにとって虎はかっこいいってだけの憧れ的な存在なんだから」
「お前、ずけずけ言うな〜」

良之助と泰司もうんうんと頷く。その頷きは光への賛同の意味だろう。

「もう好きとかじゃなくなったとか?」
「ちげえよ、俺はちゃんと好……きだっての…」

良之助に本音を聞かれ、こっぱずかしいと耳まで真っ赤にする。

「じゃあ次からは俺達抜きな!」
「とりあえず明後日遥ちゃんバイト休みだろ。家にでも誘えよ?」

ニヤニヤとイヤらしくにやける泰司に後ろから蹴りを入れる。大体近頃俺にヘタレ称号を与えようとするが、初っ端から出端を挫きやがったのはどこの誰なんだよ。そのお陰かすっかり遥と遊ぶ時は五人で集まるのが定番となってしまったのだ。それなのに今更…

「遥と二人で何したらいいんだよ…」
「ヤッちゃえ!」

ゴスッ

また泰司に一発蹴り。お前も飽きねえなまったく。でも良い機会なのかもしれない。このままこの状況を続けてゆくと"ただの友達"で確実に終わる、進展などありはしない。それは非常に困る。俺にとって愛しき存在の遥。好きだけでは終わらせない。遥からも"必要"とされる存在へならなくてはならないのだ。

「…よし。誘ってみるか」

煙草の火を近くにあった灰皿で律儀に消し携帯を開く。善は急げだ、俺の気が変わらない内に。

「よっしゃやっと決心…」
「ヤらねぇ−よ?」

泰司の口から出る前に塞いどけと、携帯のボタンをポチポチ打ちながら釘を刺す。ちぇっと、泰司は口を尖らせてすねたフリをした。ほんとこりねぇなお前らは。


(17/49p)
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