16「デート?」

昨日と同じく時刻は3時。
違いと言えば、場所は公園ではなく繁華街のゲ−ムセンタ−にいる事である。カップルや一人でゲームに奮闘する者、学校帰りと一目で判る制服に身を包んだ同じ程の世代の学生達。俺もその後者なんだが。

ウィーン、ガシ………ストーン

「よっしゃゲットー!」
「だから何でお前らが居るんだよ。」

本当に何故だか分らない。何故お前らがここに居る。泰司がものの見事にUFOキャッチャ−で取った大量のお菓子を袋に詰め、続けて光と良之助が隣のUFOキャッチャ−へと100円を投資している。絶対偶然なものか。どうせ着いて来たに決まっている!
遥からの初となるお誘いに、初となるデートだ。俺がどれだけ授業もそっちのけで森先に怒られようとも放課後を楽しみにしていたのかを知っている癖に、こいつらと来たら完全に俺の恋路をステージ脇で傍観する気満々だ。これでは集団でいつものように遊びに来ているのと何ら変わりないではないか。俺の恨みの形相を見て見ぬふりして楽しむ友人達に沸々と怒りの拳に溜めていると、そっと袖を掴まれる感触が伝わってきた。

「僕は大丈夫ですよ?沢山で遊ぶと楽しいしですし」

背後から覗く相も変わらず美しい遥に小さく頷き返し、俺は何とも複雑な気分になってしまう。きっと気遣ってくれているのだろう。優しい、なんて優しいんだろうか…そして俺はなんて心が狭いのだろうか…。何とも板挟みな心境である。
そもそもなぜゲ−ムセンタ−に来たのかと言うと、答えは眼をキラキラと輝かせる遥にあった。結構なハイレベル高に入る際やはり昼夜惜しまず勉強に明け暮れたせいか、ゲ−ムセンタ−などの遊び場に早々来たことがなかったようなのである。
そんな子今の時代に居るのか…なんて思ってしまったが、遥の行きたい所へ連れていってやりたいと既に愛しい彼に尽くしたい精神まっしぐらだ。

「桐林さんこれしましょう!」

そう言って、対戦バトルのゲ−ム機の前まで不意に手を引かれ、その一瞬に触れた指先にバクバクと心臓が鼓動を打った。指先が一瞬にして熱を帯びる。…熱い。

「桐林さん?」
「え、あぁ、」

固まっていた指先をピクリと動かし、既にスタンバイをしていた遥の向かい側の機械へと腰を降ろした。どうしよう、もうこの手洗えないじゃないか。



そして数分後、テラッチャチャーン♪と対戦終了のファンファーレが鳴り響くと、俺を目の前にする画面には「Your loss」とでかでかと文字が。

「遥…。本当にした事なかったのか?」
「え?はい。そうですけど、」

後ろで傍観していた光達は口を空けて唖然とする。遥、全KO勝ち。

「虎って、俺らん中でもずば抜けなのに…」

一瞬にして遥の何か得体の知れない偉大さをヒシヒシと感じた瞬間だった。ご本人はゲームって面白い♪なんて満足気なご様子。これが生まれながらにしての才能というやつか…。

「あ、桐林さん!次あれやりましょ!」

勢い付いた遥はまた手を引き次々と挑戦していく。俺も本気になったり、負けたり負けたり負けたり。と言うか勝てなかった。悲しすぎる、俺の面目丸つぶれだ。
そんな事を繰り返していると、ふと遥があるUFOキャッチャ−の前で止まった。どうした、と一緒にシューケースの中を覘くと可愛いうさぎの小さな人形がそこにはあった。

「取ってやろうか?」

別段深い意味もなく聞くと遥は首を横にフルフルと振った。ああそうか、遥も男だ、こんな可愛いうさぎの人形どうするってんだよな。じゃあ何を見ていたんだ?

「これって、取れるかな?」

そう言って遥はやはりうさぎの人形に指を指し俺に振り返った。近くで一緒に見ていたせいか鼻先が触れる程近い距離で目線が合う。いきなりの急接近に心臓がはち切れそうになってしまい、熱くなってしまって頬や耳を隠すように目を逸らした。鼻腔に残る遥特有の香りを留めておきたくて呼吸をするのにも戸惑ってしまった自分に更に恥ずかしくなってしまう。重症すぎやしないか。

「あぁ、ぁ、これは取れやすいんじゃないかな」
「あ、本当だ!取れた!」
「え?」

一人動揺している間に遥はうさぎの人形を見事キャッチャーしたようだ。
ああ、取れたのか。そうか良かった…。
そんな事を思いながら横で大事そうにうさぎの人形を鞄に仕舞う遥から目線をずらした。確かに俺の片思いだし、良いお友達のスタートを切ったばかりなのも分かる。分かるけども、

「俺だけ動揺かよ…」

無邪気に笑顔を向ける遥に、俺は少し泣きたくなってしまった。


◇◆◇


気付けば夕方の明かりはすっかり消え、繁華街のネオンが咲き開いていた。結局行動を共にした五人はゲ−ムセンタ−を出て近くのコンビニへと向かう。飲み物を買って店の前で今からどうするかと話ていたら、遥が突然嬉しそうな表情を見せた。

「僕こうやって友達とコンビニの前でお喋りとか初めてで凄く楽しいです」

そう言いながらも不慣れな場所での立ち話に少しまだ落ち着かない様子で、遥はにやけてしまう頬を缶ジュースで覆い隠した。それでも下がり切った眉からはとても嬉しいのだと窺える。俺たちにとっての当たり前はどれも遥には新鮮で輝かしいものばかりなのだろう。生まれてから関わる事のなかった俺達が偶然にも交り合ったあの瞬間と今を考えるだけで、俺はとても不思議な気分に駆られてしまった。普段神様など信じちゃいないがこの時ばかりは神様に感謝を贈りたい。

「またみんなで遊ぼうよー」
「はい!ぜひまた遊んで下さい!」

首を傾けてふにゃりと笑った良之助の言葉に遥は即座に返答した。
受け入れてくれた良之助達には感謝している、遥からも「友人」が出来てとても楽しそうなのだとひしひしと感じてくるから。
だが、俺はこの時じくじくと足元が浸食されるような気持ちを自覚せざる得なかった。
俺がどんなに遥を恋愛対象として見ていても、当の本人は純粋に俺達を友達として受け入れているのだ。いつかこの気持ちを伝えるかどうかは判らない。でもこの気持ちがある限り…俺は友達としては見れないのだ。それはこの先きっと変わる事のない真実。
でも、この笑顔を俺だけのモノにしたい。ずっとそばに居て抱きしめて離したくない。俺にこんなにも独占欲があるなんて思わなかった、これは何者でも遥だからなのだ。きっと、辛い恋だろう。

それでもいい。俺は、きっと何があっても遥を手放したりなどしないから。




(16/49p)
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