1「卒業」

3月初旬。
桜の開花までほんの少し遠い時、世間では卒業シーズンの真っ只。
小学生は中学生へ、高校生は進学や就職と自分の路を歩き出すスタートラインへ立つ季節である。

緑ヶ丘高等学校、三年生。

体育館に響き渡る下級生の送辞が、流れる音楽によって悲しくも嬉しい涙をそそるモノへと変わる。この高校生活三年間を振り返り、胸に祝いの造花を付けた生徒達のすすり泣く声もちらほらと聞こえる。
盛大な拍手の中体育館を出た卒業生達は、校舎へ伸びる通路に広がり、写真を撮ったり肩を組み涙を拭いたりと、思い思いの最後を楽しんだ。
その卒業生のある群れの中には、虎達四人の姿もあった。

「タイガボタンちょうだい!」
「良ちゃん写真撮ろう〜!」
「光くんまた髪切ってね!」
「泰司くん、また遊ぼう〜」
「俺それだけ!?」

下級生や同級生の女生徒に囲まれ、身動きが取れない虎達。催促されない泰司は自らボタンを渡しているようだ。
すると、担任の森先の姿を見た良之助が「あ〜!」っと指を指して女を掻き分けて森先の元へ走り出した。虎達も続いて森先の元へ向かう。

「森先!森先!」

良之助達が森先の元に着くと、虎達は笑顔で森先の前に立ちはだかった。すると、良之助が手提げ袋から15センチ四方の箱を差し出す。

「森先、これ俺たちからのお礼。三年間迷惑かけっぱなしだったから」

森先は一瞬目を見開く。プレゼントを受け取ると、既に濡れそぼったハンカチで涙を拭いた。

「お、お前らからこんなの貰えるとは、先生は嬉しいぞ!」
「開けて開けて。中身さ、俺らが考えに考えたんだ。森先絶対欲しいだろなって思って」

良之助の言葉に大きく頷くと、リボンを解いてゆく。

「そうかそうか。先生はお前達が卒業出来るか心配でしかたなかったが、無事卒業出来て嬉しかったぞー」

にこにこと微笑みながら、包装紙を開けて箱を開き、そして。

「お、なんだなん…………ん?」

中身を見た森先は、固まるや否や虎達にロボットのようにギギギ…ッとゆっくり振り向いた。

「いやー先生ずっと悩んでたでしょ?だから、俺達からのプレゼント!育毛剤」
「それ、中々手に入らない代物でさ。結構苦労したんだよ〜」

箱に丁重に収納されていた「強力育毛剤」とラベルが貼られた容器を取り出した森先からは、怒りのオーラが…

「お前ら…お前らぁぁあ!!」

笑いながら逃げる四人にいつものように追い掛ける森先の姿も、今日も見納めだと思うと悲しくなる。湿気た別れより、いつものように楽しく「また明日」と、言うように別れるんだと言う思いが込められたプレゼントを、森先はぎゅっと握りしめて離しはしなかった。





「あはは!森先の顔見たぁ?」

逃げ切った四人は成功したと清々しい気持ちで、卒業証書が入った筒を片手に門へと向かう。すると、門の脇に大きくそびえ立つ樹木の下で、手を振る者がいた。

「虎さん!みなさん、ご卒業おめでとうございます。」
「遥、」

深々とお辞儀をする遥に、虎は満面の笑みで駆け寄った。

「来てくれたのか?」
「はい!一世一代の日じゃないですか、僕も見送りたいんです」

じんわりと心が温まる思いに、虎は地団駄を踏みたくなるような衝動に駆られる。可愛い、可愛すぎる。にんまりと緩む頬をだらしなくにやけさせた。
そこにすぐ後を追うように、光達がひょっこりと顔を出す。

「あれ?遥ちゃん。来てくれたんだ」

優しく笑顔を向ける光に遥はペコリと「卒業おめでとうございます」と一礼した。遥の通う天文台も同じく今日が卒業式だったらしいが、一年生の遥は出席しなくて良いので、虎達の卒業式に来たらしい。

「ひゅーラブラブだね〜」

泰司がにやにやと笑いながらそう言うと、遥はカァーっと顔を赤くし、虎は泰司のデコを小突いた。若干本気で。
二人の交際が始まって1ヶ月と半。もちろん、光達は全てを知っている。

「どっか飯行くか」
「え、もう帰っていいんですか?」
「いーのいーの。戻ったら森先に説教されんし」
「?」

小首を傾げる遥の背中を押して、虎達は三年間お世話になった緑ヶ丘高校を後にした。


(1/12p)
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