14「メール」

◇◆◇

緑ヶ丘高等学校。昼下がり。
見慣れた廊下を通り一際騒がしい教室へと俺は脚を踏み入れる。転々と散らばる人達の間をすり抜け、窓際の自分の机へと向かう。

「はよー」

前後席に居た光と良之助に挨拶をし、鞄を机の横にかけて座った。日差しで暖められた机と椅子がほんわかと暖かく気持ちがよい。

「いや。もう昼休みだし」

良之助はすかさず突っ込み虎の机に頬杖を付いた。俺は耳に付けてたイヤホンを取りiPodの再生を停める。今日の気分は80年代のロックだ。まさに今の俺にぴったり。乗っておかないと沈みそうだ。

「まあ、虎にしては2日続けて学校来るとか偉い偉い」

そう言いながらいきなり現れた泰司は、買ってきた飲み物やパンを一人づつ渡し、空いた席から椅子を取り座る。すぐ横の窓から外を眺めると、雲は所々あるが気持ちのよい快晴だ。廊下からも楽しそうな話し声も聞こえる。学校独特の時間が、そこにはあった。
俺は携帯を片手でパカパカと開けては閉めてを繰り返しながら、焼きそばパンを頬ばる。途中携帯からバイブが鳴りメールの着信の知らせを告げるが、ちらっと見て何をする訳でもなく再度閉じた。そんな様子を光は逃さない。

「なあ、虎。」
「ん。」
「昨日あれからどうした?」

ぶっ!!
いきなり核心を突かれ、焼きそばを一本口からにょろっと吹き出してしまった。良之助、泰司も一歩前へ乗り出し、俺の第一声を待ちわびる。その雰囲気に押され、窓に背をぶつけるように後退する。

こいつらのおかげでもあるし…報告するべきだよな。
ごくっと喉を鳴らし光達と同じ様に体制を乗り出して、こそりと呟いた。

「アドレス交換した」

そう一言報告すると、成し遂げたとゆう表情で背筋を正す。しかし、光達は無言のまま目を点にしている。まるで無反応だ。

「え。どした?」

訳が判らず再度焼きそばパンを口に頬張る。なんで無反応なんだ?そこを割ってきたのは泰司だった。

「それだけ?」

それだけ?なんだ?

「いや、ヤッたとか。」
「は!?」

大きく空いた口から焼きそばの具が飛び出してしまった。

「ヤッたってなんだよ!ヤる訳ねえじゃん!」

俺は良之助のジュースを横取りながらも、ゲホッとむせる。自身で客観的に見ても物凄い動揺だと分かる。

「だってお前虎だろ?女が泣こうが関係ない、ヤるのなんか朝飯前ってお前がだろ?」
「おい。酷い言われ様だな俺…」
「まじで交換だけ!?」

バンッ

「マジも何も交換だけッ!」

俺は顔を真っ赤にし机を一叩きすると、良之助のジュースを飲み干す。何なんだこいつらは、協力してくれたから報告しなくてはと思ったのにこの言われよう。確かに普段の俺ならそうだったかもしれない…いや、そうだった…それは認めよう。しかし、俺のこの純粋に恋する気持ちを何だと思ってるんだこいつらは!?

「あぁ〜!俺のジュース!」
「言っとくけど、第一俺たちは清い中だ。友達になったんだよ!」
「清いって、虎清くないじゃん!どっろどろのねっばねばぁ〜!」
「あ!?」

空になったジュースのパックを涙目で握りしめながら、良之助が舌を出して挑発する。余程悔しかったのだろう、言うだけ言って俺の財布を奪って自販機へと直行した。俺は舌打ちして、焼そばパンを再度頬張る。

「それで!連絡取ってんの?」

良之助に誰も突っ込まず話しは進みだし、泰司の問いに俺は黙って携帯を見つめた。まだなんだ…と、皆には伝わったようだ。

「女からのメールやらは来んだけどなー」

ポソッと言いハハッと頭をかいた。やはり昨日のは社交事例だったのか。
昨日交換し帰路についてから、しばし携帯とにらめっこしていた。いつ鳴るか判らないと晩御飯もそこそこにしお風呂場にまで携帯を持参した。寝るのも惜しみ待ってはみたが、一向に遥からの着信など鳴らず、朝を迎えてしまったのだ。それを光達に告げると、

「虎が乙女化してる…」

と、鳥肌を立てていた。それぐらい嫌でも自覚している。枕を抱きしめながら恋煩いをしたのは人生初めてさ。
その時、また机に置いた携帯からバイブが鳴りだした。一斉に携帯へと視線が注がれる。

「だ、誰。」

泰司がごくりと前にのめり出す。もし遥だとしても画面は見せないと、少しずらして画面を隠した。
緊張の一瞬。

「…豹吾。」
「って弟かよっ!」

爽快な突っ込みを入れた泰司ががくりと肩を落とし、光は苦笑を洩らした。俺にも若干諦めよぎる。彼に限ってあの言葉に偽りはないとは信じたいが、身なりも性格も普段生活をしていく上で全く接点のない俺らだ。あの場合ああするしかなかったと言う事もある。
その時、益々暗くなって行く俺の手の中の携帯がもう一通のメールの受信が知らせた。


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