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きっと何の気なしの言葉だろう、しかし俺の心は大きく動揺してしまった。何とも言えない程に赤面してしまう。

「桐林さんて、かっこいいじゃないですか。憧れるなーって昨日思って」
「あこっ憧れ…?」

口元がにやける。分かっている、きっと遥の憧れとは俺が求めているものとは違うのだと。分かっているがあり得ない期待を抱いてしまう。

「ほら…僕見た目女っぽいじゃないですか。だから桐林さんみたいに男らしい人ってすっごく憧れるんです」

ほらね、やはりそうだと情けなくも肩を沈めた。

「ほんと、よく女の子に間違われるんですよね。美咲と…あ、昨日会った女の子居たじゃないですか?あの子と居ても、しょっちゅうナンパされたりとか」
「…そうなんだ」

息を飲んだ。何故忘れていたのだろうか。そうだ、遥には「彼女」が居たのだ。
可愛い大好きな「女の子」の彼女…。俺は…男…。

こんな時に現実に打ち付けられ、気力のない笑顔をこぼした。
目の前にある円形の大きな噴水を見つめて聞こえないようにため息をつく。何を浮かれていたんだ俺は。初め勘違いをした時に遥を彼女にすると意気込み、男だと気付きどうしたいと言う感情は確かに無かった。ただ変らず好きで、そう…ただ遥に会って話がしたかったのだ。初めから無理な恋だと分かっている事なのに、こんな当たり前の事に何を今更絶望する必要があるのか。何を今更…

そんな俺の傍らで、遥は徐に学生鞄の中から携帯を取りだし俺に携帯を貸してと催促してきた。言われるまま携帯を渡し、その行動を見つめる。

「はい、これ。僕のアドレスと番号入れておきました。」
「え?」

画面を見ると、谷垣 遥と書かれたメモリーがあった。

「よかったら、これから友達になってくれませんか?て、勝手に登録しちゃいましたけど。それと昨日のお詫びもちゃんとしきれていなかったので…」

照れくさそうに笑う遥を見て、沈んでいた心は一気に浮上する。今彼は何と言った?もう一度画面に目を落としメモリー確認する。

「俺の携帯に…遥…」

口に出してしまっているのも気にせず、俺の表情はみるみる高揚していく。

「だめ、ですか?」

遥は小首をかしげ、シュンとしている。その姿はまるで子犬がお預けをくらっている様に見える。ううっ可愛い…!
先程までの悩みは何のその、俺は一瞬にして心を鷲掴みにされてしまった。携帯をぎゅっと握りしめ遥と向き合う。
自身よりも低い背丈の遥に視線を合わせるように屈んで手を差し出した。

「そんな訳ないだろ?よろしく」
「はっはい!よろしくお願いします!」

握り返された手が余りにも暖かで、俺は名残惜しそうにゆっくり離した。


(13/49p)
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