12「はじまり」

時刻は3時。俺はタイ焼きを両手に遥の元へと歩いていく。ブランコの横に立っていた小さな遥が俺を見てやんわりとほほ笑んだ。

「…食うか?」

俺は必死に照れたのを隠すように、あっちらこっちらと視線を泳がせた。今までの俺が見れば何とも無様だと笑うだろう。

「あ。ありがとうございます」

会釈をする遥の笑顔ににやける頬を我慢させながら、俺は古びたブランコに腰掛けた。
遥はそそくさと、同じように並んでブランコに腰掛ける。
とりあえず、寄り道として公園に来て見た。カップルやら、子供連れの親子達が賑わう昼下がりの公園。天気もポカポカとし、寝転んで昼寝するのもよさそうだ。しかし俺と言うと平然を装うのに一杯一杯で、ひたすらタイ焼きを頬張る事しか出来ない。
昨日はレストランで普通に話せたと言うのに、何故こんなにも緊張するのだろうか。
あっと言う間にたい焼きをたいらげてしまい、味がなくなってゆくタイ焼きをひたすら口の中で転がした。
ー…沈黙が走る。

あぁ、俺こんなにも緊張したの本当に初めてかも。近くに居るのに凄く遠い気がする。遥が居る半身が嫌に汗をかく。
心臓が…高鳴る。
ちらりと横目で遥を見ると、小さな口でぽふぽふと食べていた。口の横にあんこが付いてる。

…ぺろっと取りてぇ…

「さっき校門に桐林さん達が居て、ビックリしましたよ。」

ふいに話しかけられ何を考えてるんだ自分と焦ったが、バレた訳ではないと「平常心、平常心」と自分に呪文をかけた。

「あ、ごめんな、驚かせちまって」
「いえ。お友達の方達もみんな身長高くて、囲まれた時少しびっくりしまいましたけど」

そう言って遥は愛らしい笑顔を見せた。確かにあの時の遥は可愛かった、まさに捕らわれた羊…。

「そういえば、さっきの合格って何ですか?」
「え?い、いや、あれは…」

さっきの言葉しっかり聞かれてるじゃねえか!何て言えばいいんだよ、あいつらーっ!

「あれは、あいつらの挨拶って言うか、」

虎の拳の中に冷や汗が堪っていく。

「たぶん女と勘違いしたんじゃねぇかな」

あはははと大げさに笑い、かなり無理がある気もするが何とかはぐらかす。まさか「俺の気になる子を見に来たんだ」なんて、死んでも言えない。だって、俺は男で遥も男だから。
虎は再度秘めた思いを胸に閉まってふと遥を見ると、食べる手を止めて少し困った顔をしているのに気が付いた。

「あ!ごごめん、俺酷い事言った…っ」

先程の自身の無神経過ぎる発言に蒼白する。遥だってれっきとした男だ、女と間違われて嬉しい筈がない。そんな虎を見て、遥は頭を下ろし肩を小刻みに揺らした。

「え…っあ、ごめん!」

泣かせてしまった!もう完全に血の気が引き今にも泡を吹き出しそうだ。こんな時どうすればいい?謝る事しか分からない。基本揉め事は女関係が多かったので泣かすと言う事にはどうとも思わなかった、煩わしいとしか思えなかったのに。好きとはこう言う事なのか…嫌われたくないという焦りだけが俺の心を駆け巡る。

「き…桐林さん…」

遥は手で口を押さえながらあたふたとする俺を見る。すると瞬間、あははっと気持ちのいい笑い声をあげ、笑い涙を拭いながらお腹を抱えだした。俺は目を点にし、状況が掴めず固まる。

「まるで百面相ですね。表情がコロコロ変わって、桐林さん面白すぎますっ」

泣いているんじゃなかったんだ…。何とも言えない安堵感が全身の力を落とした。

「桐林さんて、外見なんだか近寄りがたい感じだったけど、話すと凄く楽しいですね。」
「楽しい?そんな事言われたの初めてだな」
「そうなんですか?」
「みんな冷めてるとか。酷いってよく言われるし」
「えー。それはないですよ。見ているだけで結構面白いですよ?ふふ、」

まだ笑いが止まらないのか、時折笑い声を洩らしながら遥は俺に視線を合わせる。

「でもまさか、また会えるなんて思っていなかったから嬉しかったです。ほら、昨日あのままもう会えないと思ってたので」


(12/49p)
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