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一歩、一歩と、遥が近づいてくる…。
ドキドキと、聞こえるんじゃないかと思うくらいに、鼓動が鳴り響いた。昨日会ったばかりだと言うのに、何千里も離れた想い人に会うような苦しさが押し寄せる。ごくりと生唾を飲み込み、目の前に来た柔らかな少年、遥に一際大きく鼓動が波をうった。
「桐林さん、どうしてここに?」
遥は泰司達にぺこりと会釈してきょとんとした瞳で俺を見た。昨日見た私服も可愛いけどブレザー姿も可愛い!ズボン履いてるけど!
そこまで思いハッと我に帰った。ズボンを履いたブレザー姿が可愛いって俺は…。
「え!君、まじ男?」
沈む虎を尻目に、まず口を開いたのは光だった。
「はい、そうですけど…」
「うっそ、本気でかわいいじゃん!」
「男に見えね〜十分可愛い部類」
続く泰司も良之助もなぜかやたらテンションがあがっている様子だ。そんな中、自分よりも断然でかい男四人に囲まれて、遥はまるで囚われた羊の様である。
そんな遥に、俺は羊の着ぐるみを着たのを想像した。
か〜わい〜!!
っておい!また俺は何考えてんだ!
「てめぇら止めろ止めろ!遥、怖がってるじゃねぇかっ」
俺は三人を蹴散らし遥を背中に守るような体制を取った。そんな俺を三人は目をキラキラ輝かせ、ニタァっとイヤらしく笑う。その嫌みな笑顔に意味を感じ取った俺は、急に恥ずかしくなり顔を真っ赤にする。そんな俺の肩をぽんぽんっと叩き、泰司は親指を立てて一言言った。
「合格。」
「は?」
続いて良之助、光も俺の肩をぽんぽんっとし、ウィンクをして立ち去っていった。一言残して。
「頑張れよ〜!」
「なにお!?」
その場に、ポツンと残った二人。俺は背後に居る遥にゆっくりと振り向く。
「?」
小首を傾げ、遥はどうゆう事?という表情をしている。そんな遥の仕草にもグっと胸打たれつつ、これからどうしようと考える。
「とりあえず、帰るか…?」
「あ、はい。」
遥は、俺の少し後ろを歩いてゆく。9月、少し頬に気持ちのよい風が吹いた瞬間だった。
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