あれ?ここはどこだ。
確か、今日は朝から学校行ってるはずなんだけど。
周りには、見慣れない木々が立ち並んでいる。流れるように吹く風が、心地よい。

あ、誰かいる。

「おーい、そこのお前。ここどこだ?」

木々の間を抜けて、白い洋服を身にまとった人が花達に囲まれている。
そして、その人はそっと振り向いた。

「…あ、」

ドキッ
お前は昨日の…。
少女は、優しく微笑み、スッと消えていく。

「あ、ちょと!待って!……ん?」

おい、待てよ。誰が少女だって?あいつは‥あいつは‥‥

「男なんだよ────!!!」

ガタダダダーーン

膝に何かが当たり、ジンジンと痛む。
あれ?えっと‥
あー、これは、机とひっくり返った椅子。
授業中だった。

「くぉらぁ!!桐林ぃぃい!!」

「ぐあぁっ」

尻餅を付いた体勢から起きあがろうと若干腰を浮かせた瞬間、頭部に衝撃が走り、またもや尻餅をついた。

「痛ぁ!森先、名簿投げるか普通!角当たった、角当たったって!」
「黙らんかぁ!久ぶりに学校来たら、居眠りしよって!後で職員室来い!」

名簿が当たった額を擦りながら、椅子を立直し、座りなおそうとする。
瞬間、

「返事わぁ!!?」
  
ヒュン

「うわぁ!?」

また、俺を目掛けて飛んできたものを咄嗟に避け、冷や汗が垂れる。だって、飛んできたものは‥でっかい分度器‥
いや、まじで。当たったら洒落になんないから。

「わかった!わかったから、行きます行きます!」

はぁ…、と一息吐き座りなおすと、後ろの席に座る友人の光に背をつつかれ振り向いた。

「あ…」

避けた分度器は、光に的中していた。



◇◆◇

キーンコーンカーンー…

授業が終えるチャイムが鳴り、昼時となった今教室はすっかりお昼休みモードだ。

「よっしゃ、飯飯!」
「タイガ、お前久しぶりに来たんだから、何かおごれよ。」

友人の泰司(タイジ)が弁当を片手に変な飯音頭を取りながら俺に駆け寄ると、そのすぐ後に居た良之助(リョウノスケ)が、おごれと連呼してきた。

「えー、俺金ねぇって」

俺は頭をポリポリ掻きながらあくびをした。変な夢見で気分が落ち着かない。

「分度器の詫びしろ」

席の後ろから光が目を光らせて虎の耳元で囁く。

「迅速にさせて頂きます。」

俺はサッと立ち上がり、売店にパンや飲み物を買いに走った。
ほらよ、っと、3人にパンと飲み物を放り投げ、いつもの屋上でお昼を満喫する事にする。

今は九月。
しかし、まだまだ残暑も続き、太陽の日差しはきつかった。
垂れる汗を、時折拭いながら、食べ終わったパンの袋をクシャクシャっとし、律儀に袋にゴミを集める。

「本当、タイガって、見た目に似合わねぇよな。」
「うっせ、だまれ。」

そんな俺の様子を見て、良之助は笑いながら煙草に火を着ける。
ここは、本館と離れた校舎で、殆ど人の出入りが少ない。そんなとっておきの場所を見逃す訳もなく、屋上にかけられた見た目ごっついサビサビの南京錠をいとも簡単に潰しあげ、秘密基地みたいな気分で俺達は集まる。まぁ、煙草吸おうが騒ごうがめんどくさい先生達は来ないし至れり尽くせりな場所だったりする。

「てゆーか、さっきの寝言はなんな訳?」

寝っころがる俺に泰司はひょこっと顔を覗かせて聞いてきた。俺は思い出すような素振りをしてから、

「夢。ゆ〜め。」

と言い、クルリと体を横に反転させる。

「男だー!って、どんな夢だよ、」
「だぁーっもうっ!うっせぇなぁ!」

ケラケラと笑っては俺に群がりツンツンと体を突く三人に、手でシッシッと蹴散らす仕草をする。

「どうせ、女とヤッてる夢見てたんだって。」
「女にしか脳がないみたいな言い方すんじゃねーよ」

泰司はニシシっと歯を見せて笑い、光と良之助は「それしかねぇ」と、同じように笑った。何とも失礼だ、と俺は軽く睨みつつゆっくり体を起こすと、煙草に火を着けて夢の相手を思い描いた。
まさか夢にまで出てくるとはかなりの重症度と言える。遥症候群とでも名づけようか。
いつもなら時間があれば女とベタベタしたりいちゃついたりするのだが、そんな気すら起こらない。昨日からほったらかしの携帯には、メールに着信やらと女の履歴で埋め尽くされている。何をするにも手が付かないのだ。出るのは甘いため息ばかり‥。

「はぁー…」
「げっ!なに、タイガため息?」

そんな俺に対しわざとらしく大げさに驚く良之助は、すぐ様何か閃いたかのよにポンっと手を叩き一言漏らした。

「ま、さ、か、恋煩い?」

その言葉に俺はドキリと肩を揺らす。明らかに動揺しているのがバレバレだ。

「おいおいおい、まじかよ?まじかよ!」
「あの女たらしのタイガが恋!?」
「本当か!?」

三人は茶化すようにまた俺を取り囲む。
遥は正真正銘男だった。変えようのない事実だ。しかし…寝ても覚めてもご飯食っててもトイレしてても、無意識に出てくるのは遥の姿ばかり…。何となくは自覚していたが認めたくないという、異性を愛していた俺のせめてもの抵抗か。

「やっぱり、恋…なのか?」

ぽそりと呟いた言葉に、三人の顔を見合わせる。

「え、まじ?」

三人は目を点にして俺を見たが、その表情はみるみる笑顔に変わり、各々の質問をぶつけてきた。
どこの娘だとか、名前はとか、誰似だとか。三人はもの凄く笑顔だった。俺に初めて気になる人が出来た事にまるで自分の事のように喜んでいるのだ。
光、良之助、泰司は幼い頃からの腐れ縁でどんな時も共に過ごした大事な仲間だ。俺という存在をきっと身内よりも理解しているだろう。だがもし、今俺が異性ではなく同性に想いを馳せ始めていると知ればどうなる?嫌われるか?そんな筈がない、分かっている。俺はすぐさまそんな下らない迷いを取り払い、三人を真っ直ぐに見据え口を開いた。


(8/49p)
しおりをはさむ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -