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今、なんて言った?俺の聞き間違いか?いやいや、まさか。でも、有り得ない有り得ない。
だって‥なあ?あぁ、そうか。普段脳使わないから、聞き間違えても可笑しくない。うん、うん。
「あのータイガさん。」
美咲と名乗る友人が、恐る恐ると言う感じで、俺に問いかけてきた。
何だ、まだあるのか。「あと、実は地球を征服しにきた宇宙人です」と言われても今の俺は驚かないぞ。
「まさか、はるか、女と思ってました?」
「え、違うの?」
頭に一輪咲かした呑気な脳みその持ち主は、間抜け面で首を傾げた。
「よく間違われるんです。正真正銘の男ですよ、学生手帳でも見せましょうか?」
遥はニコッと微笑み鞄の中から学生手帳を出した。そこには豪勢な紋章と並び、制服を身に纏った遥がいた。性別に「男」と記載されている。
「信じてもらえましたか?」
「ー…はい。」
にわかに信じがたいが、その証拠が私は男だと名乗っている。うそだろ…
俺の決意は、何だったんだ?でも、確かによく見たら胸はないし、小柄だが多少がたいは女の子よりはしっかりしている。声も、何となく低い…気がする…。
もしかしたら、俺が美化し過ぎたのかもしれない気がしてきた。
俺は確かに、ときめいてた。
今までに感じた事のないぐらいに、ドキドキしていた。しかし、実際は男だった…。
「そうか男だったのか」と、簡単に済ませればいいものを、一体何に迷っている?混沌とする思考の中ちらりと遥に視線を移す。すると、遥は条件反射的にニコッと微笑み返した。
「!」
ドキリ。やはり胸の高鳴りが消えている訳ではない。なぜだ?なぜなんだ?彼は男だぞ?男、男、男!
ーガタン!
あられもない答えが過り焦った俺は、会計用紙を持ち逃げるようにして店を出る。逃げてばかりだなとも思ったがこの際仕方がない。あの場にこれ以上居座れる筈などない。
そして、急に蒼白した面持ちで立ち去った俺を、取り残された二人はぽかんっと口を空けるしかなかったのであった。
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