◇◆◇

「ごゆっくりどうぞー」

パタン

「‥‥‥」

さて…どうしたものか。
目の前には、電子機械と、マイクに液晶型の薄く大きなテレビ。
1人で、カラオケに来てしまった……。

あの彼女と会えた時、言葉に詰まり、なぜか「カラオケしたいんだけど」と言ってしまったまぬけな俺。
だから、1人なんだって…。いくら何でもそりゃないだろ。
『あ〜昼間の』とか『バイトしてるの?』とか『精が出るね〜』とか、言いようがあっただろうに。最後のは、オッサン過ぎか。

「はあぁぁー……」

何してんだ、俺…。
余りに無意識過ぎる大胆な行動から目覚めた恥ずかしさと間抜けさから、口から魂が抜けるぐらいの大きいため息を吐き、頭を抱えた。
その時、部屋の入り口がノックされ、開かれる。

「失礼します。」
「ー!」

一気に背筋がピンと張った。あの彼女だ。
入室前にロビーで頼んだ、ドリンクをテーブルに乗せ、一連の動作を済ませると、彼女は一礼をし去ろうとする。行く、行ってしまう。

「ま、待って!」

咄嗟に、引き止めてしまった。しかも、身を乗り出し美女のエプロンを掴みかかる寸前にまで手を伸ばしてしまっていたようで、すぐさま引っ込める。

「はい、」

あの子は、クスクスと可愛く笑った。

「いや、あの、ごめん。そうじゃなくて」

うわーダサッ!俺!
柄にもなくまともに喋れない事に、余計に恥ずかしくなり、顔を伏せて頭をかいた。

「乙女か俺は‥」
「おとめ?」
「!…口に出してた、俺?うわぁー、はず…」
「くす、」

彼女は手で口元を軽く隠し微笑んだ。まるでお花が漂ってきそうなやんわり感。俺は一層ドキッと胸が高鳴る。そして、ふと胸元の名札に眼が行く。そこには手書きで「谷垣遥」と書かれていた。
はるか‥ちゃん。なんてピッタリな名前なんろう。俺はそこで、決意をした。

──絶対この子をモノにする。

今までに感じたことのないこの感情。はっきりと判る、これは生まれ初めての一目惚れだ。
きっと、俺が今まで彷徨い続けていたのは、彼女に巡り会う為だったんだ。
そう思えば、兎に角行動あるのみと、真っ直ぐに彼女を見据える。

「あのさ、バイト何時に終わるの?」
「え?えっと、あと1時間ぐらいですけど」
「終わってから時間ある?昼間の事もあるし、どっか寄らね?」
「昼間…?」

そこまで言うと彼女は小首を傾げて一瞬考える仕草をすると、思い出したのか慌てて抱えてたお盆を膝に両手で乗せて頭を下げた。

「あの時はすみませんでした!お顔を忘れてしまうなんてっ本当にすみませんっ!」
「いいよいいよ、俺もすぐ立ち去っちゃったし、顔なんて早々覚えられる時間無かったし」

覚えて居なかったんだ、はは…。少しショックではあったが、実際俺は背を向けて顔をしっかりと見合わせては居なかったので、仕方がなかったと思い改める。俺はあの一瞬でもこの彼女を忘れられなかったが。

「じゃあ、いいかな?バイト終わり…」
「はい、ちゃんとお詫びもしたいので、是非!」

彼女…改め遥は、ニコッと笑って、ではまた後程とお辞儀をし部屋を後にした。

「よし、よし、よし!」

よっしゃ───!!
ガッツポーズをし、拳に誓いを込め天高く掲げた。
また出会えた奇跡。もう二度と離してなるものか、何が何でも繋がりを作るんだ。
カウントダウンまで1時間。
とりあえず、気合いの意味で曲を入れた。


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