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 廊下に出て促されるままに階段を下り一階のスタジオ前に来た虎は、そのスタジオすぐ横にある部屋にいた。真っ白の部屋にガラス張り状態の鏡、そしてずらりと並んだメイク道具に、ウォークインクローゼットに敷き詰められた衣装たち。
嫌でもわかる風景に、虎は引き腰になってしまった。

「そこ座って桐林くん。」
「な、なにするんすか?」

方頬を引きつらせたまま自分を呼びに来た彼女に問いかけると、なんでそんな事聞くの?と、でも言いたそうな表情を見せた。
なんだか、自分が失礼な事を聞いたのかと焦る気分になる。

「えーと、あれ?聞いてないのかな、もしかして?」

もしかしても何も俺はただの付き添いだ、と心の中で突っ込み、とりあえず頷いておいた。

「えー……困ったなあ。私ただのスタイリストだからどうしよう、」

うーんと唸ると、彼女ここで少し待っていてと言って、せわしなく部屋を出て行った。
こんな場所に1人残されてもと、虎はやり場のない身を、じっとさせながら部屋を見渡していたら、また扉が開いた。
すると、先程のスタイリストの彼女と、綺麗な容姿をした新たな女性がその場にいた。

次から次へと……。虎は神経が削られる思いに溜め息をついていると、新たな女性が身を乗り出して近付いてきた。

「きゃあー!タイガくーん!」
「……は?」

目の真ん前で、ネイルが綺麗に施された手を振り、笑顔であたかも知り合いのように彼女は話しかけてきた。
いや、俺はこんな奴知らないんだけど。

「……?」
「ちょっとやだ、忘れちゃったのもしかして!?昨日一緒に飲んだじゃん!」

思い出したー?と小首を傾げる目の前の女を必死に思い出すが、……残念ながら全く見覚えがない。昨日飲んだメンバーは、ガタイ男にギャル男にキャバ女、黒髪女に遥だ。
しかし、今目の前にいる女はモカブラウン色のするんと纏まった胸丈の髪に、フェミニンなAラインのワンピースを着こなした、細身の清楚な女。
いや、本当は昔の女とか?体だけの関係だった女もいたなと思い出してはみるが、まったく検討がつかない。
まだ眉を潜める虎に、女はしびれを切らして頬をぷくーっと膨らした。

「ちょっとやだ、まじ忘れたの?茜じゃん、茜だよー!」
「あかね……。え、キャバ女?」

まさか。
そう思いながら頭の天辺から足先まで見渡す。どこに昨日の面影があると言うのか、鼻を摘みたくなるような香水の匂いはしないし、ましてや今の清楚さなんて微塵も無かったはず。
そこまで言うと失礼か、と思うが、180度違う茜に、虎はただ驚くしかなかったのだ。

「キャバ?あはは、なにそれ!茜そんな風に見えてたあ?」

いや、喋り方はこんな感じだったな。

「まぁいいや。タイガさ、何も聞いてないんだよね?今日の事。」
「……いや、俺ただの付き添いだし」
「ふーん、そっかそっか。」

そう言うと、茜は虎を鏡台の前に座らせて、スタイリストに準備してと指示した。

「おい、ちゃんと説明しろよ。」
「するするってー。とりあえず、ミーちゃん頼むねえ。」

立ち上がろうとする虎の肩を押して座り直させると、ミーちゃんと呼ばれたスタイリストが背後に立ち、鏡に向かうように頭を固定させてきた。

「タイガって雑貨デザイナーなんだってねえ。職業もかっこいいなんて最高じゃん。」
「いや、まだアシスタントだし……、て何で知って」
「だって、タイガの会社推したの茜だもん。」

は?と口を開けたままの虎の隣に座り、頬杖を付きながらそう告げた茜は、にこりと笑って話を続けた。


(25/30p)
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