24

 一時間半と少し。隣との県境に位置するビル街に、目的の三ツ葉プロダクションと言う大手出版社があった。
ファッション雑誌や書籍などの出版物のみならず多方面に業績を伸ばす会社だ。
今回の取材は、そのプロダクションが出版しているメンズ雑誌などでの、雑貨アクセサリーの特集に関するものらしい。
虎も詳しくは聞かされておらず、ウォードランドの一員として付き添いを命じられたのだ。

 会社の前にある大通りの脇に車を一時停車させると、ミモリが「終わり頃にまた連絡する」と言い、ミモリに続いて虎達も車を降りた。車はそのまま車の流れに乗り消えていく。
守道はバイクを地下駐車場へと止めたのか、既に入り口の近くで待っていた。
そのまま揃って社内に入ると、ミモリは受付を済ませ、その受付の女子社員に来客用のプレートを渡され、ロビーで待つように促される。
すると幾分すぐ、エスカレーター横にある階段から、世話しなくヒールの音をカツカツと響かせながら、女性が1人駆けてきた。

「はぁ…、お待たせしました。えっと錦さん?」

 余程急いで来たのだろう、女性は息を切らしながらこちらに声を発した。ミモリは一歩先に出て、女性に向かい合う。

「はい、そうです。」
「わざわざお越し下さって、ありがとうございます。私、今回担当させていただく山崎です。宜しくお願いします。ええっと、すぐ取材に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 山崎と名乗った背の低い女性は、名刺を差し出しながら、自分よりもかなり高いミモリを見上てヘコっと頭を下げた。
少し、気の弱そうな彼女に安心させるようにか、ミモリは豪快な笑顔で返事を返す。

「それでは、行きましょうか!こちらです。」

 ホッと胸を撫で下ろした彼女もまた笑顔で返し、その取材場所とやらに向かうのであった。
 結構な広さを持つロビーの吹き抜けを、一番後ろにいる遥は口を半開きにしたまま眺めた。
 この三ツ葉プロダクションは国内でも知らぬ者は居ない程の会社で、遥の愛用する辞書や、雑誌、はたまた元彼女の美咲が大好きな雑貨屋さんの企業グループを傘下に持つ大手企業であるのだ。驚くのは無理はない、まさかそんな場所にこんな形で訪れる事が出来るなんて。
ただの付き添いではあるが、無意識にワクワクとした気持ちが浮き上がってくる。
すると、前を歩く虎が目を細めて笑っていた。

「え、なに?」
「ううん。なんも」

 先ほどまで眉間を寄せていた表情が、本人も気付かぬ程煌びやかに満ちている事に虎は安堵する。普段中々経験の出来ない事だ、遥にとって有意義なものになって欲しいと思い誘ったのだ。
それに、そう。遥はやはり笑っている表情が一番だから。

 エスカレーターを数階上がりフロアを抜けて通路に入ると、一室へと案内された。
しかし一室と言っても、そこはどこかの二階のようで、入り口から3メートル程前に並ぶ手すりから見下ろせば、一階には大きなフロアがあり、人が数名ばかりいる。白いカーテンのようなものにスタンドライト。
素人でもわかる、そこはテレビ等でよく見るスタジオだった。
 そんなスタジオを眺めながら、設置されていたテーブルのイスに腰掛けようとした時、閉じていた扉が開かれて、また女性が1人入ってきた。

「お疲れ様です。キリバヤシタイガさんはいますか?」

 いきなり身時知らずの女性にフルネームで呼ばれ、虎は小首を傾げた。

「俺っすけど……?」

そう言った矢先、反対側に座っていた山崎さんが「あ!」と慌てて立ち上がった。

「すみません、忘れてました!えっと、桐林さんすぐ行って下さい。」
「はい?え、どこに」

 俺の問いへの返答を聞く間もなく、先程入ってきた女性が急かすように手招きをしてくる。
 守道とミモリに視線を送ると、何故か手を振り替えされて、まるで「行ってらっしゃい」とでも言うかのような笑顔を返され、虎はそのまま訳も分からず女性について部屋を後にした。

パタリと閉じた扉を不安げに見つめていたら、ミモリが一つ席を詰めるように促してくる。
虎が腰掛けていた席に移り、虎の行方を問うようにミモリを凝視した。
そんな遥に、ミモリはフフフと笑う。

「んふふー、だいじょーぶだよー?後でびっくりするよ」

意味の分からない返答に、遥は更に不安を募らせる一方であった。


(24/30p)
しおりをはさむ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -