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それからも、時計の針は刻々と進み、何やら低い音程が廊下を駆けめぐっている。
布団にくるまり虎とスヤスヤと寝息を立てていた遥は、少し覚醒した意識を部屋の入り口に向けた。
すると突如、その重低音と共に扉が勢い良いく開かれる。

「すば〜ら〜し〜あーさがきたぁー♪兄貴ー!起ーきーろー!!」
「…っ!!」

いきなり聴覚に響いた声に、遥は目を見開き体がびくりと反応した。開かれた扉を見れば、弟の豹吾が、ボウルに泡立て器で何やら泡立てながら、エプロン姿で立っている。そんな豹吾と遥はバチリと視線が重なる。

「豹吾くん、おはよ。お邪魔してます」

微妙にまだ夢の世界から抜け切れていないのか、瞼を柔らかげに開きながらも、律儀に挨拶をする。そんな遥を見て、豹吾は「あ、ごめん」と一言漏らした。
その意味をすぐ理解した遥は、そそくさと体を起こす。

一緒に布団で寝ている所を見られるなんてと、遥は朝から羞恥に見まわれた。

「いや、あの昨日飲みすぎちゃって、虎さんが看病…?してくれて、あの」
「そっかそっか!あ、兄貴起こしてくれる?時間に遅れるぞーって。」

シャカシャカとボウルに泡立て器の音を立てながら、豹吾は部屋を後にした。

「虎さん、起きて。豹吾くんが起きろって、虎さん」

ゆさゆさと肩を揺さぶると、「うう、」と、うなり声を上げて瞼を開いた。

「今日何か用事あるんですか?仕事休みですよね?豹吾くんが遅れるぞって、」

横に座る遥を下から見上げながら、虎は額に手を当て頭をガリガリとかく。遥の言葉の単語を一つずつ脳内で確認すると「あ。」と声を出した。

「…忘れてた。」

はぁ、とため息をつくと、まだ眠たいのか重い体をゆっくり持ち上げ、遥と視線を合わせ寝癖がついた前髪の間からおでこにチュッとキスをした。
そしてそのまま、ベッドから身を起こし背伸びをして肩を鳴らす。
ベッドの上では、相変わらず不意のキスに慣れない遥が恥ずかしそうにしていた。

「今日、あれ。仕事の関係でちょっとな」
「仕事?」
「おー。雑誌でページ組むらしくて、取材とか色々。すっかり忘れてた。」
「へー」

なんか凄い、と言う遥に、そう?と軽く言いながら洋服棚から数着出すと、真新しい下着もセットに遥に差し出す。

「一緒に行くだろ?風呂入ってこいよ。」
「え!?いや、いいですよ仕事の邪魔なりますし、家帰ります!」
「いーから。風呂も入ってさっぱりしてこい。」

ほら、と体を抱き上げられて、虎の服と下着を握らされてポンポンと背中を押される。
しかし、遠慮と納得が行かない遥は、足を進めない。
そんな遥に、虎は背後から耳元に唇を寄せた。

「…なんなら一緒に入る?風呂場でも俺全然平気だけど。」

その意味を理解してか、遥は体を一瞬硬直させ、顔が赤々と沸騰する。虎はくっくと声を殺して笑う。

「…い、いいです!お風呂お借りしますっ」
「どーぞ。行ってらっしゃい」

部屋を出る遥に手を振りながら、可愛いなぁ、とにやける虎であった。


(20/30p)
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