19「やっと知る」



◇◆◇

暗い五畳サイズの部屋の窓から、月夜の灯りが仄かに差し込む。
シングルサイズのベッドで、俺は壁際に背を寄せ、横で心地良さそうに眠る遥との間に、掛け布団を沈めて仕切りを作った。

触れたい疼きを抑え身を離すが、どうしても無意識に片手が遥へと伸びてしまう。

「…はぁ」

その度に眉をしかめ溜め息を吐き、虎は頭を振った。

──結局起きなかった遥を抱えて、辿り着いたのは我が家。

だって、どうしようもないだろ?

ただ寝かせるだけだ。
そう言い聞かせる自分が酷く哀しかったが、スヤスヤと気持ちよさそうに眠る遥の横顔を見て、ナニをしようって言うんだ。

ぐっと身をこらえ天井に体を向けると、シーツを固く握りしめて目を閉じた。

が。視界を遮断すれば、寝息が鼓膜に響く。
さすれば、また身を動かし壁に体を向け頭を布団に埋める。
と…、掛け布団が遥の呼吸の度に僅かに揺れるのが気になって、気になって、背後が異様に汗をかくし。

どーすりゃいいんだ俺っ!



そんな事をグルグルとしていたら、気付けば、外には朝が訪れていた。

「…ーん…」

鼻から抜けるような声で、遥は目を覚ます。まだ眠る脳が、自室と違う天井の照明を確認するが、いまいち思考が回らない。
そして、腕を動かそうとしたら、…何故か重い。と言うより、体が重い…?

「!」
「…はよ」

首筋に、うずくまる髪の毛がそう挨拶した。

「たいがさん!?あ、あれ?」

しっかりと遥にしがみついた虎が、もぞもぞと顔を上げる。
結局、逃げ切れなかった虎は、遥に抱きつき落ち着いたのは朝方だった。

「昨日、飲んで…、ここって」
「俺の部屋…、マンション入り方わかんなかったから」

遥は、うーん、と、少しずつ記憶を辿って行く。最後に見たのは、虎の唇…、で。
そこで、自分の記憶が途切れた辺り、寝入ってしまったのだろうと理解した。
にしても、…身動きが取れない。

遥の体を挟むようにしがみついた虎は、今更心地良い眠気が来たのか、益々動く気配が無かった。

「ごめんなさい、僕、酔って、迷惑」
「んー……」
「かけてしまって、」
「…………」
「…たいがさん?」

遥の肩に規則正しい息がかかる。

「寝た…?」

返事がない。

うん、と…、どうしよう。
遥は動けない状況に困惑するも、抱きしめられている事に恥ずかしくなり天井を見つめながら、目を泳がした。

とりあえず、どうしようもないので、遥もまた瞼を閉じる。

気付けば、二人の重なる寝息が、朝方の部屋で小さく音をたてていた。




(19/30p)
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