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「失礼しまーす」
店員が挨拶と共に、また注文したドリンク類をテーブルに並べていく。遥には、お冷やを手渡し軽く腰に手を回しながら体を支えた。
…みんなにはバレないように。
「あ。携帯はけーん!」
茜は、ジャケットのポケットから頭を覗かしていた、俺の携帯をするりと取り上げると、自分の携帯番号を打ち込み、ダイヤル発信をしようとする。
「ちょ、やめろ。返せ!」
すぐさま取り返し、何とか防げたが、茜はブゥーブゥーと文句を垂れていた。
あーもう、切り上げてぇ…
そう思いながら、遥をふと見ると、お冷やをチビチビと頬を赤らめたまま飲んでいる。
いや、お冷や…?
「遥!」
もしやと思いバッ取り上げると、それはお冷やではなく新たに茜が頼んだお酒だった。
取り上げたお酒を名残惜しそうに「あ〜…」なんて顔するから、俺は悪い事した気分になるが、遥をこれ以上酔わす訳には行かない。
それよりも、こんなに甘いフェロモンを出している遥を、この場に置いてなどおけない。
俺は財布から数枚のお札を出し、向かいの鈴木に手渡した。
いきなり渡されたお札に目を丸くしていたが、くてっとしながら虎にもたれ掛かる遥を見て、小さく頷いた。
話のわかる奴で良かったと思いながら、遥と先に店を後にする。
しばらく、茜の不服な叫びが店内に響き渡っていた。
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