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「はは、遠慮しとくよ。」
「遠慮しないでよ〜。タイガ君って結構遊び人でしょ?茜分かるんだよね〜そう言うの。割り切った関係とか得意そう。」
「…。」
あぁ、やめてくれ。
意中を突かれてるだけに、変に冷や汗が出てくる。遥に聞かれたくない。
「ね〜タイガく」
「おい、茜〜。お前また脚広げる誘いかよ」
「もう!やめてよ和也!下品な奴っ」
ギャル男の和也がタイミングよく間に入ってくれたお陰で、肩に入っていた力が抜けた。
そっと、遥に目線をやると、やはり聞いていたのか気まずそうに微笑んでいる。
「いや、嘘だから。気にすんなよ?」
嘘…なんて、それこそ嘘なんだが、過去の俺を消そうにも消せないし、また冷や汗が出てくる。
「虎さんかっこいいから。」
小さく遠慮がちに開いた唇からは、ポツリとそんな言葉が聞こえた。握る手もなんだか力が抜けている。
俺は離さないと言う意志で強く握りしめ、遥の奥にある焼き肉のタレを取るフリをして小さく囁いた。
「大丈夫。好きなの遥だけだから。」
ざわつく周りの音で、遥にだけ聴こえる言葉。
皿にタレを足していると、キュッと軽く手が握り返された。
別に何を話す訳でもなく、お互いの体温を繋げているその手が、なんだか凄く愛おしい。
それから小一時間、食事も進み、飲み物もどんどん追加されていった。俺も大概飲む方だが、ガタイ男の鈴木のピッチは凄まじいものがある。
途中、俺はトイレに行きたくなり席を外した。
個室の扉がパタンと閉じたと同時に、茜が遥の横に移動する。
「ちょっと、谷垣くぅん。タイガくんって本当に彼女いるの?」
「え、あー…」
どうしよう、何て答えたらいいんだろうと返事を濁していたら、目の前にグイッとコップが手渡された。中は氷と透明な液体だが、アルコールが漂っているのが見える。
「え、」
「飲んで?」
未成年だからと手と首を振り拒否するが「みんな未成年だしっ!」と、唇にコップを当てられた。
「ほら、飲んでよ〜。恭子だって今日は飲んでるじゃん。飲んで洗いざらい吐いて貰うわよ」
魂胆はそこか。と、思いつつ、威圧感のある茜には逆らえない遥は、少しだけ…ならと、酒を口に含んだ。
だが、慣れないせいか、すぐに咽せてしまう。
そんな遥を可愛いと笑いながら、茜は更に遥に酒を飲ませていく。
ガラ──
途端、扉が開き、虎がトイレから帰ってきた。
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