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「寒いんだろ?繋いだら暖かいよ」
「え、でも、誰かに見られたら」
遠慮がちな遥の手を引っ張り、虎はぎゅっと握り締めた。
「ほら、暖かい」
すると、キョロキョロと辺りを見渡してから、小さく「…はい」と聞こえた。街頭で僅かに照れている遥の頬が見える。
抱きしめて、キスしたい。
そう思った矢先、無意識だった。
ちゅ。
軽く触れた音が、乾いた空気の中漂う。それは、外で初めてするキス。
「あ、ごめん。」
「や、謝らないで下さいよ…余計恥かしいですから…」
握られた手が熱くなるのが判る。
「遥。」
もっと、時間があったら。
「もっと、したい」
遥の両肩を押して街頭の脇の小道に入る。遥の返事を聞く間もなく、虎は遥に唇を合わせた。先ほどの軽いキスではなく、重なり合うキス。
遥の肩に力が入る。
「…ん…ン」
柔らかな唇を割り、舌が侵入する。一瞬遥の瞳が大きく開いたが、すぐに受け入れるように自らの舌も絡ませた。そして、糸を繋げるようにお互いの唇が離れる。
すると、虎は俯きながら唸り出した。
「た、たいがさん?」
「あぁ〜、これ以上は我慢だよな〜。…明日学校に仕事あるし」
その意味に、遥はボンっと爆発するかのように真っ赤になる。再度、ぎゅうっと抱きしめて、遥の背中をポンポンと叩くと手を繋いぎ直し「帰ろうか」と、道に戻った。
虎のやり場のない欲望とは裏腹に、遥はどう声をかけていいかわからず、家に着くまで終始無言の時間が過ぎた。
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