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虎は誰も居なくなった部屋で、後片付けをしながら、守道の作業場を覗く。ごちゃごちゃとしたそこからは、異質な空気が漂う感じだ。
「本当、だらけてるのにいい仕事するよなぁ、あの人」
ゴミ箱を片手に、虎はまじまじと机の上に置かれているモノを見る。シンプルだが素材にこだわり、事細かな細工が施された指輪。
触る事はせず、眺めるだけ。
俺もいつかは、こんな風に素晴らしい作品を作ってみたい…なんて、考えながら気合を入れなおし、虎はまたせっせと後片付けをして、店内の掃除を始めた。
仕事を初めてから、俺のやる事と言ったらもっぱら接客だった。
と、言ってもそんなに頻繁に客がいる訳ではないので、途中途中に、ミモリや守道のアシスタントをする事もあるが、まだ一人で完璧に自らの手で作り上げたことなど無かった。
ウォードランドの一員になるには、まだまだ技術も何もない。
時間と労力だけが過ぎていく日々。
はぁ…こんな時は──
「遥に会いてぇーなー」
雑巾で入り口の窓を拭きながら、向かい側の遥の勤務するバイト先を見る。
今頃、学校向かってんのかな。
若干落ちていた虎だったが、遥の笑顔を思い出しニヤニヤと口元を緩ませながら、雑巾がけを続けた。
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