浜へ戻ると、木陰には既にバーベキューコンロや木炭など必要な道具が一式揃えられていた。
フェイスタオルで軽く髪を拭い、木陰に移動する。とりあえず何をすればと考えた矢先、先に浜辺に戻った泰司が釣竿やバケツを両手に現れた。更にその後ろから、良之助がソリに食材の入ったクーラーボックスを乗せて歩いてくる。雪の斜面を滑るものだろそれは。確かに便利ではあるが、現場所とは不釣り合いなだけに笑けてしまう。
バーベキューは事前に役割分担を決めていたので、各自用意に取りかかった。
まず、泰司は魚介類を穫るため先程付けていたシュノーケルを再度装着し、手にはモリ、腰に網を引っさげた。まるでどこぞの素潜りさんだ。普通に釣りでいいと言ったのだが、どうしてもやりたかったらしい。
俺は光と魚釣り、良之助は火をお越し担当で遥は食材の調理準備といった分担である。
そこでふとある事を思いつく。
つつつっと良之助の横に移動して耳打ちした。

「おい良之助、エプロンあるか?」
「は?エプロン?いやぁー無かったと思うけど…なんで?」
「ちぇ、なんだつまらん。」

無いのか、残念。舌打ちをして泰司から竿を受け取る。
なぜエプロンかと言うと答えは簡単。食材担当が遥な訳だろ?更に今水着だ。エプロン着けて見ろ…

「…ふふ」
「虎…顔に出てるぞ」

裸エプロン…と漏れた笑い声に、光がすかざず突っ込みを入れた。つい妄想をしてだらしない表情をしていたから思考がバレてしまったか。

「よし、行くか光!」

気を引き締めてバケツを手に持つ。良之助の話では、海沿いを進んで行くと盛り上がった岩場に絶好の釣スポットがあるとの事。釣りなんて中学以来な上、海釣りは初めてなのでどんな魚が釣れるかと楽しみだ。
頑張ってと手を振る遥に振り返していたら、なんだか出稼ぎに行く旦那みたいだなぁとかつい想像してまたニヤけ、光に呆れた様に脇腹を突かれてしまった。
そして俺達はそのまま釣りスポットへと向かった。




「さざえ食べてえなぁ。」

続けて完全装備を施した泰司も見送ってすぐ、良之助が着火剤と木炭をパズルの様にトングで乗せながら呟いた。クーラーボックスの上でまな板シートを置いて食材を切っていた遥は、ちらりと良之助を見る。

「ここで採れるんですか?」
「んー知らない」
「そ、そうですか…」

そんな風にいつも適当な良之助に、まだ慣れない遥であった。


一方、釣り場へと目指し歩いていた俺達は、現在崖の上にいる。
聞いた通り真っ直ぐに海辺を歩いて行ったのだが、岩山にぶつかってしまったのだ。多分ここを登るんだろうと岩場の隙間に足を掛けて登ると、海辺から5メートル程の高さが生れてしまった。更に足元には大きな亀裂が走り、波が大きく水飛沫を上げて蠢いている。落ちたら危ないな、と思いながら軽く飛び越えて進んで行くと、斜面が下り海面から2メートル程の高さの平地に出た。透き通ってはいるがかなり深い事が窺える。二人は此処で釣りをする事にした。

「こんな所で釣れるのか?」
「わかんねぇ。とりあえず釣れなかったら場所移動しようぜ」

そうだな、と頷いて一先ず腰を下ろした。




その頃、泰司はと言うと。

「よっしゃ!げっと〜」

海面からザバッと顔を出し、モリを突き上げると、そこには綺麗な青色をした二十センチ程の魚が刺さっていた。腰にある網には既に二匹の魚が息絶え絶えに入っている。

「やっべー、ちょう楽しい」

呼吸を整え一息吸うとまた頭から潜っていく。野生化していく泰司であった。


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