「うわぁ、凄いー!キラキラしてる!」

太陽光を鏡のように反射させる海に向かい、遥は大きく深呼吸した。熱を帯びた砂地が素肌にはかなり熱くて、あちちっと足をバタバタと動かした。

「虎さん!早く来てくださいー!ほら、こうやったらすっごい気持ちいいですよ!すぅーはぁー」
「お、おう。ちょっと待ってな…」

無理、無理だ。どんな拷問だ。
俺は木陰でじっとしゃがみはしゃぐ遥に手を振り返した。
荷物を置いてからすぐに海へと出た俺達は、持参の水着を着用して現在に至る。
眉間に皺を寄せて唸る俺の横に、光がしゃがみ込んで慰めるように肩をポンポンと叩たいてきた。

「わかるわかる。あれはキツいよな」

光のその一言に頭を下げてポリポリと掻く。遥の水着姿を見て、男の性と言うか何と言うか…立つ所立てず立たなくていい所が立ってしまったのだ。案の定身動きの取れなくなってしまった俺は収まるのを待機中だ。
いや、無理ホント無理、肌凄え白いし全体的に細いし、元から体毛も薄いせいか、中性的な体つきなんだ。遥の裸体の攻撃数値が高過ぎて俺は瀕死状態。
立てた膝の間に頭を埋めて、ひたすら収まるのを願った。こんなのにいちいち反応していたらバカンス所じゃなくなる。

「どうした虎?」

そんな俺に泰司がケロッとした表情で浮き輪を担ぎながら聞いてきた。光の察しろと言う視線に、泰司は「ああ…」と、苦笑した。

「これ使うか?」
「は?」

差し出された浮輪と泰司を交互に見る。あ、そういう事か。

「有り難く借りる…。」

情けなさと羞恥心で泳いで島を一周したい位だ。
泰司の気遣いに通りに浮輪をカポッと被り、腰辺りに高さを固定してそのまま遥の元へと向かった。
ホント…情けない…。正直過ぎる俺の息子のバカ。

「大変だなぁ、虎も」

同情と言うか何というか、泰司に情けをかけられたのもやるせない。







ザザザァ

ザザザァ


「はぁー気持ちいいー。3月に海入れるなんて思わなかったぁー」
「本当だなー」

海に浸かってから、浮き輪の上に遥を乗せてゆるゆると浜から離れて泳いだ。
濁る事なく透き通った海の中で、沢山の熱帯魚のような小さな魚が泳いでいる。色とりどりな珊瑚礁がゆらりゆらりと華を咲かせていた。水深二メートル弱程の所まで来たが、海の中の砂がまだ見える程だ。
暑い日差しに冷たい海、そして大好きな遥と一緒。なんとも贅沢だと締まりなく頬がニヤけた。

ぷかぷかぷか…

遥は波の揺れが心地よいのか、体をクテッと倒して髪の毛が波に浸かり揺れていた。細かく光続ける水面に包まれた遥は、描かれた漫画の一コマのようだ。
目を瞑り、気持ちいいのか小さく鼻歌を歌っている。浮き輪にぶら下がり浮いていた俺は、目の前の横顔の遥に無性に恋しくなってしまった。

「なぁ遥」
「はいー?」
「キス、していいか?」
「!!」

俺の発言に驚いたのか、遥はバランスを崩して浮き輪から落ちてしまった。息苦しそうにザバッと頭を出し浮き輪に捕まる。まだ余り濡れていなかった遥だったが、一瞬にしてずぶ濡れだ。濡れた髪がこれまた…ああ、理性よ落ち付け。

「ぶ…、だいじょうぶか?」
「だ、大丈夫です。ゲホッ」

海水が鼻に入ったらしく、咽せては鼻腔を気持ち悪そうにしている。そんな遥に手を伸ばし目にかかった前髪を上に上げてやると、目線を伏せて顔を背けられた。避けられたような行動に俺はショック。

「…悪い、」
「え!?あ、いや、ビックリしただけなんで…」

浮き輪の内側にある遥の手を握ると、冷やっとした感触が伝わる。
でも諦めきれない俺も大したものだ。

「駄目…?」

懲りずにお願いすると、顔をあげた遥と視線が絡み合う。小さく赤い頬をし頷いた遥を見て、俺はゆっくり顔を前へ乗り出した。でも大きい浮輪が邪魔をして届かない。よって遥からも乗り出してもらわなければ、どうする事も出来ないのである。

「んっ、」

唇を突き出して促す俺に、遥は一瞬竦んだが周囲をキョロキョロとさせて、チュッと触れるだけのキスをしてくれた。リップ音が余計に恥ずかしかったのか、耳まで真っ赤にし浮輪に顔を埋めていた。

「へ…へへへへ…」

俺のだらしない笑い声に、眉の下げ切った遥が顔をあげてムスッとした。照れ隠しでぶすくされる癖があると知ったのは最近の事だ。
でも、余計に愛しく触れたくなってしまった俺は、浮輪の淵に居る遥に浮輪を被せて中へと入れる。鼻が触れ合う至近距離に、遥は益々顔を真っ赤にさせた。そんな遥の唇に向かって、また緩く唇を触れさせる。リップ音が鳴らないゆっくりとした動作に、遥は目を見開いたまま固まってしまった。可愛いなぁもう。

「足りないから、もうちょっと」

息がかかる距離でそう囁くと、遥の睫毛が伏せられた。太陽の光が睫毛の影を一掃と濃くする。
俺はまた唇を重ねた。
海水に冷やされた体とは裏腹に、触れる唇が熱い。柔らかな遥の下唇を甘噛みして、舌を入れよう…とした矢先。

「たーいがぁー!はぁーるかちゃーん」

突如自分達を呼ぶ掛け声が響き、俺達は慌てて顔を引き離した。
良い所で邪魔をしやがったバカの方向に睨みを利かせると、ゴムボートに乗った良之助と光が居た。そのすぐ横で泰司はシュノーケルを付けて海面から頭を半分出している。三人がゆっくりこちらに近付いてくると、お昼から予定していたバーベキューの準備をそろそろ始めようと伝えてきた。

「あーお前らホント…」

吐き捨てるように不満をぼそりと言って、遥の入った浮輪を浜辺へ向かって押していく。
遥が固まってしまっているのは言うまでもない。


(6/12p)
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