「ふぁ〜、あー寝たぁー…」

狭いベッドで寝ていたせいか体がギシギシと痛むのか泰司がゴキゴキと間接を鳴らした。

「ん?」

ふと席側を見ると、飛行機のエンジン音以外静まりかえっている。低い天井の下背を丸めて前方に移り光達の席を覗き込んだ。すると、そこには良之助がもたれかかり、辛そうに眠る光の姿があった。良之助は涎を垂らして爆睡だ。

「ね、寝てるし。てか良之助よだれ汚っ」

いやいや、泰司も洪水並みによだれ垂らしていびきをかいていたんだが。
そのまま左に顔を向けると、泰司はフッと微笑んだ。遥と虎はお互い手を握り、虎の肩に遥がそっと寄り添って寝ていたのだ。

「同じ寝方なのに、こうも違うんだな。はは」

皮肉を込めた言葉でそう吐いた。自分の席に腰を降ろし腕時計で時刻を確認する。一時間半近く寝ていたようだ。
ふーっと背もたれにも体重を預けると、視界の横のテーブルに置かれたタッパーが目に入る。じっと見ると…ご飯粒が見える。後方の良之助の顔を勢い良く覗くと、頬には同じくご飯粒が。一瞬にしてあれが弁当だったと泰司は理解。そして絶望。

「な、なんで起こしてくんねーんだよぉ〜!」

幸せそうに眠る四人とは対象に、泰司の悲しい叫びが響き渡ったのだった。







「良之助!起きろ!着陸体制に入れ」

伯父の声で、垂れていたよだれをじゅるっと吸い上げて慌てて起きた良之助は、横で眉をしかめていた光を揺さぶり起こし泰司は俺の肩を叩いて起こしてきた。

「…!いてぇっ泰司いてえよ!起きたから叩くな!」
「地獄に落ちちまえクソっ!」

起こすとは程遠い殴るような力加減に制止をかけたら、理不尽過ぎる言葉が返ってきた。え、なんで寝起きで地獄に落ちろとか言われなきゃなんねえの。
未だ鼻息荒く怒っている泰司を尻目に遥を揺さぶり起こすと、色素の薄い瞳がゆっくりと開かれた。ドキリとする。すげえ色っぽい…。
うつらうつらと眠気眼のままの遥のシートベルトを代りに付け、俺はドクリと打つ鼓動を落ち着かせようと視線を前方に向ける。
たったこれだけで、初っ端から俺がこれじゃあ旅行期間中理性が保てるのかと頬をかく。
確かに流れで「タイガ君恒例、遥ちゃんとヤッちゃいましょー!コーナー」とか言っていたが…。
そんな俺の悶々を知らない遥が、行き成り興奮気味に袖を引っ張ってきた。

「た、虎さん見て、凄い綺麗!」

大きく眼を見開き窓の外を眺める遥の後ろから、そっと覗く。

「おぉ、すげぇ。初めて見た…」

そこには、ブルーの海ではなく淡いモスグリーンのように透き通った海原が広がっていた。珊瑚礁が見え、なんとイルカまでもが泳いでいた。

「うぉ!イルカ!イルカ!ジュゴン?イルカ?」
「どう見てもイルカだろ」

泰司は興奮し過ぎてかジュゴンと叫んでいた。それに冷静に突っ込みを入れた光も海原に魅入る。
機体が徐々に高度を下げ、行きとは違う重圧感と共に衝撃が全身に走る。滑走路に無事到着した機体は徐々に速度を緩め停止した。
伯父の一声で俺達はシートベルトは外し席を立つ。荷物を抱えて高鳴る緊張と期待に心が落ち着かない。

「うわぁ、」

機体から順に降りる。歓喜の声を上げる遥が手を額にかざし日差しを影にした。続けて俺も見知らぬ土地に脚を付けて周囲を見渡す。
そこは、写真や映像として見る事しかなかった世界が広がっていた。
見渡す限りの草花が一面に咲き乱れ、空とのコントラスが凄い。日本とは違い暖かい安定した気候らしく、その花も見た事がないように感じる。
日差しはとても眩しいが、頬をすり抜ける風がそんな暑さを緩和してくれていた。一言でいえばとて心地よい場所だ。
機体を格納庫に仕舞った良之助の伯父に付き俺達は歩き出す。
すると良之助が思い出したかのように声を上げた。

「あ、ここまだダライの島じゃないんだよね」
「はい!?」

着いたとばかり思っていた俺たちに良之助は続ける。

「ほら、あれ。あれに乗って島に行くんだ。ここ隣の島」

そう告げて指指す先に見えたのは、海辺に横付けされた小型船舶。やたらと映えるホワイトボヂィに青のラインが入っている、船名には「和」と書かれていた。
和?と余りにも不釣り合いな船名に首を傾げると、伯父が「外国人受けがよくてね、」と軽く笑って教えてくれた。どうもこの船舶は伯父の所有物らしい、…さすが良之助の血筋と納得だ。

「あれダライの島」

そう言い良之助が指の指す方向を見ると、地平線とまでは言わないが小さく島が見える。近そうでいてそれなりに距離があるらしい。
数分し、乗り場と思える板に船舶が横付けされる。荷物と共に順番に乗り場へと足を伸ばした。安全を確認してから、伯父は「明日の夕方迎えに来る」と告げると何ともあっさりと船を走らせて行ってしまった。

「行くぞ。別荘あそこだから」

砂地を取り囲むように生い茂る木々の後ろで、別荘と思われる屋根が見えた。良之助が歩き出しその後を付いていく。細かい粒子の砂に足が沈んで歩きにくい。木々の間には人工であしらった路が出来ていて、そこを少し突き進むと立派な別荘が現れだした。
別荘と言うよりもログハウスである。自然と見事に調和しており違和感はなかった。

「虎さん達はよく良之助さんの別荘行ったりとかするんですか?」

玄関に入る途中、遥が聞いてきた。

「あまりないな」
「そうなんですか?」
「こんなのに毎回付き合ってたら俺達の庶民感が余計虚しくなるだろ、」
「…確かにそうですね。」

変に納得した遥は、ヘラヘラとした良之助に一瞬目をやると疲れたように溜息を吐いた。俺達はもう十年以上の付き合いのせいかケタ外れな感覚も多少は受け流せるようにはなっているが、遥はまだ出会って僅かだ。溜息をつきたくなる理由も判る。俺だって一般家庭の庶民に過ぎないんだ。
玄関を潜り抜けると一面にエントランスホールが広がり、オシャレなキッチンや暖炉がその一角に置かれていた。両サイドから階段を上がると二階には寝室が三つあるらしい。壁にはピカソのような不思議なデザインの大きな絵画が飾られており、鹿の頭の剥製やらも並んでいた。

「暖炉って…ここ年中暑い所じゃないのか?」

光が煉瓦で囲まれた暖炉を見つめて、良之助に問うと「飾りだから」とあっさり返される。

「あの絵画は有名な絵画とかですか?」
「あれは俺が描いたやつ!すげーだろ、自信作なんだよね〜」

照れたように豪華に笑う良之助を余所に、メンバーはそのご自慢の絵画を見て目を点にした。ピカソ?いや、まったく何を描いてるのかが判らない素晴らしい絵画で…。
そんな事よりも、まずは荷物を置き一息つきたかったので部屋割りをする事にする。部屋は三つ。当たり前に俺と遥は一緒の部屋として、光と良之助が同じ部屋、泰司は一人部屋へと決まった。
なぜ自分だけ一人なんだ!と、泰司は吠えているが。

「お前寝相悪いし歯軋りといびきが最強に腹立つから別っ!」
「ひでぇ〜よ!」

半べそ状態で部屋の扉を開けた泰司は、部屋の中で異彩を放つキングサイズのベッドを見て、涙はどこへ飛んだのやら。

「ひゃっほ〜!これ一人で寝放題!?いえ〜」

荷物も放り投げて一目散にベッドへダイブした。何とも簡単な奴だ。
一方、遥は何やら部屋の入り口の前で固まっている。
どうした?
そう思い後ろから覗き込むと、窓側にはシーツがピンと張られたキングベッドがデカデカと主張されていた。

「ベッドひとつ…?」
「だね。」

俺の軽い返答に無言で立ち止ったままの遥の脇をすり抜けて室内に入り荷物を壁際に置く。
未だ入り口で立ち止る遥を遠くから覗き込むように首を傾げた。

「いやか?」

俺の問いにバッと顔をあげ、手振りも一緒に大きく首を振った。

「そんな!違います、そうじゃなくて…あーそのー…」

遥は恥ずかしそうに言葉を濁すと、やっと室内に足を踏み入れた。
意識してくれているのか、と、俺は高鳴る期待と不埒な妄想で顔が無意識にニヤけていたようで、それを見た遥は眉間に皺を寄せて真っ赤になる顔で睨んできた。だめ、それも可愛いからダメージなし。


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