食事も終えひとしきり旅行の話も済ますと、遥は急遽バイトが入ったらしく途中で抜けて行った。そしてそのまま旅行の詳細を練る為良之助の家へ向かう事になる。
寂しい。空いた隣の空間にわざとらしく肩を落胆させた。


高級住宅地の中心に位置する良之助の邸宅は、いつ見ても迫力がある。無線キーで玄関を開き、石段を上がると警備体制ががっしりとされている扉を開けた。
まさに金持ちの豪邸!とはまた少し違うのだが、ごく一般の家に比べれば明らかな広さは十分ある。だって玄関に大型バイクと俺の部屋位はある吹き抜けがその象徴だ。
階段を上がり慣れた良之助の部屋へ入ると、四人かけの白いソファーに泰司はボスッと寝転がった。光と俺はソファーの下に座り込み、ガラステーブルの上に携帯や卒業証書を置く。
すると、間一髪入れずにノックがされお手伝いの40歳半ばの女性が入ってきた。

「いらっしゃい皆さん。お久しぶりですね、ご卒業おめでとうございます。」
「あ、信子さん。」

信子さんと呼ばれた女性は、手に持っていたお盆をテーブルに片端乗せると、紅茶やお菓子を次々に並べていく。光は律儀に「お気遣いなく」と頭を下げた。

「そうだ信子さん。親父にダライに卒業旅行行くって連絡入れといてくんない?」
「あら、卒業旅行ダライに決めらしたの。旦那様今日は帰って来られないのでお電話を入れておきますね。」

信子さんは良之助が産まれる以前からお手伝いとして働いている女性で、年相応の優しい笑顔がとても心地よい。忙しい両親の代わりをしていたのもあるので、良之助を自分の息子のように可愛がっている。
一礼をし信子が部屋を後にするや否や、泰司はすかさずお菓子に食らいつく。さっきまでハンバーグをがっついてたのに本当に食い意地の張った奴だ。

「えーと、日にち来週でいいよな?」
「おう。遥は土日バイト休みだし、来週の土日でいいんじゃないか」

些か急か?とも思ったが別段準備期間とかも必要はないので、旅行のシナリオはあっさりと完成した。
そして一段落ついた俺達は、卒業祝いと言う瞑目でいつもの如く飲み会へと発展する。
部屋の入り口に取り付けた子機から、信子さんに連絡をしビール、焼酎、ブランデーをありったけ持って来てと伝えた。
少しすると、信子さんはお盆に水割りのセットやグラス、頼まれたアルコール類を持ち運んで来た。

「良之助さん、一応未成年なんですから飲みすぎないで下さいね?旦那様に知れたら私が怒られるんですから」
「わーってるって!あ、そうだ。あとなんかつまみも作ってくれない?信子さんの作る物は何でも美味いんだよな〜」
「もう、本当にお上手なんですからー」

そう言いつつも嬉しそうに「判りました」とお盆を下げて信子さんは部屋を出ていった。本当に良之助には激甘だな。

「お前おだてるのは上手いのに、頭からっきし空だよな。浪人生」
「いーんだよ、今から勉強頑張るし」

頑張るのが遅いと光に頭を小突かれ、良之助はグラスにビールを注いでいく。焼酎派の俺と光は備え付けられたトングでグラスに氷を入れる。各々グラスに飲み物が入ると、高々と持ち上げ一斉に声を上げた。

「卒業おめでとー!」

カーンと乾杯をし一気に喉に流して行く。一杯目は残さず一気に飲み干す、それが俺達の流儀だ。
談笑が始まり、信子お手製のつまみもテーブルに並び一気に宴会はヒートアップする。そして、話題はいつしか俺と遥の話題になってしまった。
付き合った当日の出来事は耳にしている光達だったが、その後の俺達の"発展"は聞きたくても聞けなくて気になっていたらしい。

「で、お前らどこまでイッたの!?」

かなり勢いよく飲んでいた良之助が興奮気味に問い詰めてきた。若干酔いが回り始めたのかいつもに増してテンションが高めである。

「どこまでって、…ぎゅっ?」
「えぇー!?」
「虎が、あの虎が…っまだ何にもしていないなんて…!!」

どう言う意味だよ。そう突っ込めば「そのまんまの意味だ」と返された。余りの理不尽な反応に俺はぶすくされた。

「だー!あのな、俺だってまじなの!」

溶けてなくなった氷を付け足しながら、水割りを手際よく作っていく。

「本当に、遥目の前にしたら何にも出来ない…いや、手は勝手に動くんだけど、抱きしめるだけで癒されると言うか。」

へぇー…と、三人はにやつきながら頷くと「あのヤリチンの虎がねー」と口々に言い出した。お前ら全く本当に良い親友だな。

「じゃあ、あれだな。タイガ君恒例、遥ちゃんとヤッちゃいましょー!コーナー復活。ダライ行くしいい機会じゃん?」
「てか何その恒例とか、コーナーって。身覚えないしお前らが勝手に騒いでるだけだろ」

泰司の言葉にすかさず睨み返した。泰司はわざとらしく口笛を吹きながら目を逸らす。

「まぁこの機会に何かしら発展するのは有りかもな?」

すっきりとしたイケメン顔で光がにやりと告げた。
発展…、キス…ぐらいはしたいかも…。

そんな考えを巡らせて、片手でグラスを下持ちし氷をカラコロと鳴らす。

「そうだな。頑張ってみる…」


旅行まで僅か一週間と三日。
ダライの旅行でどうなるのか。遥の気持ちを余所に、俺達は違う意味で胸を膨らましていた。


(3/12p)
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