いつもならガラ空きの駅前のファミレスに入ると、他校の卒業生も居てか珍しく賑わっていた。いつも座るテーブルが丁度空いていたのでそこに座ることにする。

「いらっしゃいませ」

女性店員がメニュー表とお冷やをテーブルに置いていく。俺はすかさずメニュー表を取り、隣に座る遥にどうぞ、と手渡した。一人百円と言う格安なドリンクバーと、パスタやハンバーグ、良之助はパフェをオーダーする。遥が「どれにしよう」と迷っていたので、ゆっくり選べよ、と声をかけた。迷った末良之助と同じパフェを注文するそうだ。

数分後、テーブルに湯気立つハンバーグやパスタと、ポッキーやバナナなどのフルーツが乗った豪勢なパフェが到着した。
予想外な大きさに、遥は食べれるかなと苦笑いを洩らし、良之助は喜んで食らいつく。

いつもと同じ昼時、いつもと変わらない時間とメンツ。今日が卒業式だったと言う実感が湧かず変な感じだ。いつもと違う事と言えば、未だ飾られたままの胸元の造花と、ボタンが無くなった制服と言ったところか。この制服も今日で終わりか…そう思うと少し哀しい。
そんな憂いを感じながら食事を進めていると、良之助が提案した「卒業旅行」へと話題は移る。
どこへ行くかと毎度の事ながら悩んでいると、卒業旅行と言う大イベントに良之助はヨシッと手を打った。

「親父に頼んで、ダライの別荘行こうぜ」
「ダライの別荘?」

みんなが一斉に声を合わせてそう言うと、ダライってどこだ?と泰司が言った。

「なんか、島」
「なんか、島!て、えらいアバウトだな」

光がパスタを頬張りながらフォークで良之助を指差した。

「小さい無人島買ったらしくてさ、プライベートビーチだし。どよ!」

なんとも壮大な話に、良之助のリッチ生活に免疫の無い遥はパフェを食べる手を止めて口をぽかんと空けている。俺達は「じゃあそうしよか」と、あっさり決定。

「お、驚かないんですか?」

遥が戸惑った表情で俺に聞いてきた。正直俺だって島買ったなんて言う金持ちの感覚は判らない。けれど、当のお坊っちゃまな良之助がひょうひょうとした性格だからか小鼻をうごめかす事もしないので、昔からの感覚で慣れているというのもある。

「もちろん、遥ちゃんも参加だよ」
「え!?」

良之助の予期しない言葉に遥がガタンと体を驚かせた。俺はと言うと、そんな驚いた姿でポッキークランチを片手に持つ遥を直視せずに居られない。だって可愛いですから。

「いや、あの…僕卒業してないですし、お邪魔する訳には」
「邪魔だなんて何言ってんの。虎が行くなら遥ちゃんも当たり前でしょ?」
「え、そんな…」

俺的には当然遥も一緒が大前提だったので、困ったように視線を向けてきた遥に満面の笑みで返した。むしろ遥が来ないなら俺も行かないし。お邪魔な3人が居ない数日を遥とまったり過ごすのも中々良いとかも考えている。
数回視線を泳がせてちらりと周囲を見渡した遥は、拒否なんて毛頭ないメンバーにほっと胸を撫で下ろした。

「そ…それじゃあ、よろしくお願いします…」

軽く頭を下げて申し訳なさそうにする遥の頭を撫でると、気恥ずかしそうにやんわりと退けられた。ショックだが場所が場所なだけに仕様がないか…、耳を染めている遥に免じて我慢しよう。

卒業旅行の行き先が決定した所で、テーブルの上の食事を再開する。俺はあっという間に平らげたが、遥は大きなパフェに苦戦しているようだった。もう食べられないと水を幾度と飲むので「残せば?」と言うと、むうっした表情でスプーンにチョコクリームをてんこ盛りにして差し出して来た。
これはもしや、食べろという事か?恋人同士が夢見る一つの「お口にあーん」をお願いされて要るのか!?
俺は遠慮なく口を開きかぶりついた。

「ん、美味しい」
「僕もう食べられない。虎さん食べて?」

食べる、食べるけどこのままあーんの形で食べさせてほしいなーなんて考えていたら、遥が次々とスプーンを差し出してくる。なんて幸せなんだ…!甘い物が食べられる男で良かったー!
だがなんだ。

「…なに」

光達から痛い程の視線に低く唸る。

「ね〜旅行遥ちゃんも行かないといけない理由、判ったでしょー?」

良之助が既に完食したパフェのグラスの中でスプーンをコロコロと回しながら厭らしくにやついた。

「当たり前だろ、遥も一緒じゃなきゃ行かねえよ。」
「きゃー!狼に気を付けて遥ちゃーん!」

そう冷やかす泰司の言葉に、何を連想したか遥は顔を真っ赤にする。願ってもいないチャンスに気付いた俺は、見えない所でガッツポーズをした。


(2/12p)
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