1「つないだ手」
──月曜日。
それは、働く者にとっては、言いようが無い憂鬱の始まりなのかもしれない。
だが、俺は違った。
学生だった頃とは違い、目覚まし時計より早くに目が覚め、豹吾が支度する朝食を横から摘みながら、朝一のニュースを見る。
この頃の欧米の新大統領や、相次ぐ破産や偽装。株価の数字を見ては、コーヒーを口にする。
ま、結局の所社会情勢には余り詳しくはないんだけど。
しかし、それは俺にしては大きな進歩である。
──そう、一ヶ月前。
俺は、ついに社会人になったのだ。
スーツを着たり、現場で汗水流す男気が溢れる仕事ではないが、大好きな仕事につけた。俺はやる気に満ち溢れていた。
「兄貴、靴下裏表。」
「え、あぁ…。」
まだ、完全に目が覚めるまで俺は時間がかかるんだ。
…そんな目で見るな。
横目でわざとらしくため息を吐く豹吾に、フンっと鼻を鳴らしながら、虎は、携帯に財布、鍵とシンプルな手持ちで玄関を出る。
まだ、朝方は肌寒い。
いってきます、と言って黒の折りたたみ自転車に跨り、駅前の仕事場へと出勤した。
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