兄貴コンプレックス

虎の弟、豹吾の日常のお話し。
格好良くて男らしい兄貴を尊敬する豹吾だったが、彼にはある悩みが。




兄貴コンプレックス





某日。
虎の弟、豹吾の部屋に一人の女が遊びに来ていた。兄に負けず劣らずのタラシっぷり炸裂な弟、豹吾は今日も狙った獲物を逃さない……予定。

「ねぇー豹吾のお兄さんって、三年の人だよね?」
「そうだけど、なに」

いらっときた台詞に、雑誌を読んでいた俺はあからさまに眉間にシワを寄せて女に背を向けた。

「お願い!紹介して?」

やっぱりこいつもか…

「嫌」
「えー!なんでよいいじゃん」
「てかお前俺の彼女だろ!?」
「え、そうだっけ?」

んが!やっぱり…やっぱりこの女もかー!!
いつもいつも俺に言い寄る女の目当ては、兄貴がほとんどなんだ!

「無理無理、今兄貴彼女居るし」

遥を思い浮かべて、兄は今「彼女」が居ると断った。だが女は怯む所か更に食いついてくる。

「嘘。私の友達のユミが最近まで付き合ってたって言ってたもん。今フリーなんでしょ?」

それって本当に"彼女"だったんですか?

まぁ、そんな事を本人に言える訳がないから心の中で呟いたが、兄に今まで真剣に付き合った女なんて居ない事は知っているので「無理無理」と突き通した。
それに、最近珍しく遥ちゃんって言う女の子と毎日のように遊んでるし、部屋でもゲームとかしかやっていないようで。
それは今までの兄と違うのは明確だった。よっぽと本気なのだろう、付け入る隙など無い事は俺でも理解している。

その時、一階から玄関の開く音がした。

「もしかしてお兄さん帰ってきた!?」

女は立ち上がり、一目散に階段へと向い出す。

「ちょっ待て!」

俺の制止など聞く訳もなく階段を勢い良く下って行き、急いで後を追うように部屋を出る。

玄関に辿り着いた女は、玄関の扉を開けて半身入っていた兄貴を見るや否や目を輝かせて食らいついた。いきなり目の前に現れた女に、兄貴は驚いて一歩後退している。

「はじめまして!私ミカって言います〜。あ、ユミって覚えてます!?私の友達なんですけどぉー。てかまじかっこいいですね!ちょ〜感動〜!」

捲し立てる自称俺の女に兄貴が嫌そうに眉間に皺を寄せた。うわぁ、これはヤバい。
危機を感じて直ぐにその場から移動させようと手を伸ばした瞬間、兄貴の背後から遥がひょこっと顔を出した。

「どうしたんですか?」

いきなり現れた遥のとても澄んだオーラに、女はたじろぐ。俺もそんな遥ちゃんを見てだらしなく頬が緩んでしまったが、許して頂きたい。だって可愛いんだもの!天使!まさに天使!悪魔な兄貴には勿体無さ過ぎる!
そんな事を言える訳もないので、無難に「いらっしゃい」と挨拶をした。

「もしかして豹吾君の彼女さん?」
「うん、そう」
「違います」

遥に彼女かと聞かれてて照れながらハイと答えると、すぐさま女に否定されてしまった。振り向いてきた自称彼女が、鋭い眼光で「誰この女!?」と訴えかけてくる。

「だから彼女いるっつったじゃん」

頭をぽりぽりと掻きながら自称彼女に言うと、更に凄まれて兄貴の方に視線を戻す。
遥を上から下へと見定めるように見ると、フッと笑った。勝った…とでも思ったのだろうか。

「お兄さん!そんな女の子より私との方が良いですよ!私、夜の方は自信あるんですよ〜」

と、猫なで声で媚びる。何てにゃんにゃん言葉だ、俺なら食らいついてしまうぞ。
しかし兄貴は、更に嫌悪感を走らせたような表情をして自称彼女を睨んで。

「"そんな"?誰と比べてんだよ。失せろ、うざい」

大事な遥を侮辱され頭に来たらしい兄貴はそう吐き捨てると、目を伏せて玄関を上がった。

「遥上がって、」
「え、う、うん」

固まる自称彼女の横をすり抜けて、兄貴と遥ちゃんは二階の自室へと入って行った。

「ひょ…豹吾…」

玄関で一人硬直したままの自称彼女が、俺の名を呼んだかと思った瞬間…

「豹吾のばかぁぁぁぁあ〜!!」
「えー!なんで俺!?」

そう叫びながら、自称彼女は勢い良く家を…出ていってしまった。俺の不服な気持ちを残して。


 
ダダダダダダダァーーーン!!!

「バカ兄貴ぃぃぃーーー!!」

階段を駆け上がり兄貴の部屋へと怒鳴りこむ。丁度服を着替えていたらしい兄貴は頭に服をひっかけながら「次はなんだよ…」と、何ともめんどくさそうに溜め息をついた。

「いっつもいつも人の女に手を出しやがって!!」
「見に覚えまったくないんですけど」
「いーや!幼稚園時代の良子ちゃんや、小学生時代には俺が真剣に恋した明子先生だって「お兄ちゃんはかっこいいね、将来素敵な旦那様になるわ」なんて…みんなみんなみーんな兄貴ばっかッ!!」
「知るかよ、そんなの…」

呆れて物も言えないと言わんばかりに、騒ぎ散らす俺をほったらかしに呑気に制服をハンガーにかけている。いや、皺になるよかいいよ!汚されてクリーニング代も馬鹿にならないしな。でもな、それよりも大事な事があるんだ。

「俺…一生兄貴に邪魔されんだ…っ」

情けなくもぐずっと鼻水を垂らしてしまったが、もうどうでもいい。これでも足らない位に兄貴には長年の恨みがあるんだ。
すると、遥ちゃんが俺の頭を…撫でてくれた。

「豹吾くん、な、泣かないで?確かに虎さん素敵だけど、豹吾くんも同じくらい素敵だよ。僕が女の子だったら迷っちゃうなぁ、ははは」
「は…遥ちゃん…」

最後の笑いは何だか若干誤魔化した感があるが、この境地に救いの手を差し伸べてくれた遥ちゃんが天使と言うよりも神に見えてしまった。ほら!背後から神々しい光が見える!

「あぁ、何て良い子なんだ!兄貴には勿体無い〜!でも遥ちゃん女の子なのに自分を僕って言ったり制服ズボン穿いたり面白い子だなぁ〜!もういいや遥ちゃんがいれば!えへ!」
「え?いや、僕女の子じゃ」
「またまた〜」

「切り返し早っ」と兄貴に横で突っ込みを入れられつつ、今日も今日とて兄貴コンプレックスは続いていくのであった。

そしていつになったら気付くんだ、豹吾。


(2/3p)
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