49「その後」

ここからは、やっとこ恋人となった二人のその後すぐのお話しです。






後々聞いた話だが、あの日の俺の下がりきった鼻は漫画の様だったとか。
仕方がないだろう。相手が遥な上に言わば初めての両想い、強いては恋人同士な訳で。
鼻下が2m、3mあったとしても足らないんじゃないかと思う。
それ位に締まらない顔をさらけ出してたんじゃないかな。

「ほら、また…虎さんしっかりして下さいよ。」
「え…?」

隣でペンを握る遥が肩肘を付いて側に寄ってくれているこの状況で、例のだらしない顔をせずにいられるか。

「あ、ここ、ここはさっき言ったじゃないですか…」

更に身を乗り出した遥が、机と前を向く俺の間に半身を割って入って来た。
訂正箇所を消しゴムで消し、こちらに振り返る…と、

「!」
「あ、待った。このまま」
「タイガさん!」

鼻先が擦れる程顔が近付いて、不意に引いた遥の体をガシリとホールドする。
先日出された課題プリントを白紙で提出した際、更に増やされてしまって今遥に教えて貰っていたのだが、そんなものどうでもいい。
…三年の授業分が一年の遥が理解出来るなんて、どうでもいい事にする。

にかりと頬を緩ませて唇を近付けようと、今頑張っているのだ。

「た、虎さん待って!この体勢腰痛い…!」
「じゃあこうする。」

ヒョイと持ち上げて遥を胡座の上に股がらせると、向かい合う体勢になる。そのままギュウっと抱き締めれば、位置的に高い遥が頭を柔く抱えてくれた。
幸せだなぁ。このままずっとこうして居たい。願わくば、このままこのままズルズルと…

1、2、1、2、とお尻を後ろに動かして徐々に徐々にベッドに移動する。そのまま遥を上に持ち上げてベッドに乗せた。その際、「ぶへっ」と顔を布団に埋めたのか微妙な鳴き声がしたが、気にしないでおこう。

「たっ虎さん!今は課題を仕上げる時なんです!じゃれてる場合じゃ」
「いいからいいから、」
「よくないっです!!」

ぼふっ。次に我もベッドに乗り継ごうとしたら顔を枕によって塞がれてしまった。
ちょっと、ふざけ過ぎたのかもしれない…
そう思い、枕をゆっくり退けて遥を見れば、今にも泣き出しそうに眉間を山にしていた。

「あ、ごめん!やり過ぎた…」
「別にいいです…」

すっかり不貞腐れた遥は、ベッドから体を下ろすと、シャーペンを握り締めた。
ポリポリと頭を掻き元の位置に座り直し、遥の横顔をちらりと見る。
なんだか、そわそわと視線を動かして何か言いたさげだ。

「…怒った?」
「…怒ってません。ただ…」
「ただ?」

口ごもり、少し間を空けてから唇を尖らして続けた。

「……僕、そんな慣れてません…。だからこう言うじゃれあいもこしょばゆくて、どうしたらいいのか」
「ぶはっ」
「!?」

吹き出した俺に、目を見開いて遥が振り返った。
どんなけ真面目なんだ、遥。

「うん、あは…、その時に任せればいいよ、楽しいならさ」
「そう…ですね。堅苦しくてすみません」

無性に愛でたくなる衝動を抑えながら、掌だけ許して、と、頭にぽんと撫でた。そのまま素直に撫でられる遥は自分の情けなさからか、不貞腐れたまま照れている。
ぽわぽわとしたこの空間が、何とも愛しく感じる。

大切にしなくちゃ。
大事に大事に、

「いっぱい愛していったげる」
「うへっ!うああ……ハイ」


2008/4/21-2011/3/20(改)


(49/49p)
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