48「手を添えて」

俺が遥に恋をしたきっかけは、勘違いからだった。だが、一人の人間として遥を好きなんだと気付き、何をする訳でもなくただただ思い続けた俺の恋心。
それを自ら封じてしまい、やり場のない日々を送り続けた。
純粋に恋を知るのが怖かっただけかもしれない。不器用で、傷付けてばかりで。

遥…ただ、君を好きなんだと。



「はぁ…は…っ」

必死に駆け続けて、振り向く事もなく手を握りしめたままいつもの公園へと辿り着いた。
溶けた雪がベンチを湿らせ座る事は出来ないと、公園の奥の屋根がある場所にまで歩いていった。勿論、お互いに握りしめた手は暖かく。

どうしようか。走っている間も、今もだらしなく喜びが押し寄せて頬が緩んでしまう。

「…はるか、」
「は、はい」

目的の場所に辿り着き一呼吸置いて直ぐ名前を呼ぶと、遥はそのまま勢い良く頭を下げた。それこそ素晴らしく90度の角度。

「さ、さっきはすすすみませんでした!それと、美咲の不躾な態度や非礼を詫びます!本当にすみませんでした!」
「え、え?」

サラリーマンよろしく詫びられてしまい、咄嗟に周囲を見回して誰もいない事に、ふうと安堵で肩を撫で下ろした。こんな現場を見られては何事かと勘違いされても可笑しくない、それこそヤンチャ盛りな青年が初な少年に金でもせびている様な構図だ。

「いいよ、大丈夫だからやめろって、」
「でも!幾ら僕の為とは言えど虎さんにした事は」
「いいから!」

「でも…」と弁を続ける遥にスッと目を細めて笑いかけると、頬を染めて口を紡いだ。そのまま視線を地面に気まずそうに向けると、また、ゆっくりと唇を開く。

「…美咲とは別れました。」
「そうなんだ…………。え!?」

思いもよらぬ発言に、変な間を空けた挙句に大きく聞き返してしまった。
別れた?うそだろ!

「虎さんに酷き事をしたからとか、それだけが原因じゃないんです、僕が…その、」
「…うん…、」

続きを待つが、そのままゴモゴモと口籠ってしまい、何やら視線を右往左往と泳がしている。僅かに耳が赤く染まっているのを確認出来て、その仕草に少し確信めいてきた勘違いに悪戯な笑顔が溢れてきた。

「俺な、遥に会うつもりだったんだ。クリスマスの事謝りたくて。」
「僕も!僕も謝りたくって、それにまた虎さんと友達に戻りたくって…だから…。行き成り学校まで押しかけてしまってすみませんでした…」
「ううん、嬉しい。俺も凄い会いたかった。」
「はい…え?!」

嬉しい…と呟く程度に繰り返して、泣きそうに眉を下げた。虎は自分を拒絶した立場だ、聞き間違いなのではないかと自分の耳を疑ってしまい、情けなく首を下げてしまった。

「お願いします…、今から言う事、どうか聞いて下さい、」

ごくりと生唾を飲んで、真っ直ぐに虎を見つめる。
告げるんだ、後悔するかもしれないけど関係ない。告げなきゃ、全てを伝えられないんだ。

「僕」
「しっ」

んぐっと指を唇に当てられ、塞がれてしまう。なんだろう?と虎の仕草や表情から読み取ろうとするが、ただ笑顔を向ける虎からは何も読み取れない。
一大決心を鈍らされ少し眉を顰めてしまう。

「…ぶ、何て顔してんだよ。」
「とらはんかほんなほとふうはら」
「虎さんがそんな事するから?おお、俺良く分かった。」
「…んむう…」

可笑しそうに笑いながら指を退けると、遥は益々ぶすくれてしまった。

もしかしたら、遥が言う筈だった言葉は「この事」じゃないかもしれない。でも、「その事」は俺から言わなきゃいけない気がするんだ。だから、言わせてくれ。

「俺、遥にホントすげぇ会いたかった。めちゃくちゃ傷つけたのに…ごめんな、俺、遥が好きなんだ。友達とかじゃなくて遥そのものが好き。大好き。ごめん気持ち悪いかもしれないけど、離したくない位すげえ好き」

「……………。」

全ての想いを告げて一息つき遥の反応を待つが、……なんだろうこの間は。
遥と言えば、目を見開いたまま硬直している。

「…はるか?」
「……………………うそ」
「……ホント」

その瞬間、遥の頬が最高潮に沸騰し始める。このまま蒸発するんじゃないかって程だ。
それが嬉しくて、先程よりも盛大に「ぶふっ」と噴出してしまった。この空間が幸せすぎて、愛しすぎて。

「ぼっ僕が言いたかったんです!虎さんが好きだって!なのに、うああ…反則だぁー…っ」
「ごめん、遥、可愛い、大好き」
「もっもういいです!」

両手で顔を隠す遥を抱き寄せて、細っこい背中を撫でてやる。ふわふわの髪に顎を擦りつければ、ラベンダーのような香りがふわりと漂った。

抱きすくめた愛しい想い人、こんな時が来るとは思っていなかったよ。

じわりと目頭が熱くなる。

「虎さん、苦しいですっ、虎さん〜っ」
「うん…もうちょいこうさせて、」

すんと沁みる鼻腔を気付かれないように啜り、瞼を強く閉じた。
お互いの想いが通じ合い、心がくすぶるように恥ずかしくも嬉しい。

遥、遥。もう二度と離さない。




周囲を囲う公園の木々が風に揺れ、冷たい空気の中で太陽が雲で隠れた。その雲間から、ちらりちらりと白い雪が舞い踊る。
お互いに手を取り合い、微笑む二人を祝福するかのように。


(48/49p)
しおりをはさむ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -