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◇◆◇

「はい。じゃあこれで終わりです」

堅物そうな女性教師からHR終了の声が上がると、遥はすぐに席を一目散に学校を後にした。
自分の気持ちがはっきりした今、一寸の曇りもない心でなんとも軽やかに足を進めていく。
お互いが通う天高と緑ヶ丘との丁度中間にある、二人が友達になった公園。そこのすぐそばにまで差し掛かると、公園を取り囲むフェンスに手をかけた。
異様に脈打つ鼓動が耳にまで伝わり、脚がなかなか進まない。

虎さんに会うのに、凄い緊張してる─…

「さ…避けられないかな。話ちゃんと出来るかな」

避けられるかも…そんな不安が過るが、そんな事を言っている場合ではない。ぐっと拳に力を入れ、前をしっかりと見据える。

向かえ、虎さんの元へ行くんだ…!

また、一歩一歩と歩み出し、徐々に緑ヶ丘へと近付いていく。以前まで毎日のようにメールをしていたのもあって、いつ頃帰るのかも予想は出来ている。緑ヶ丘の生徒と一度もすれ違っていないのでまだなのであろう。

少し下って、目的地の前にまで来た。実は緑ヶ丘に来るのも初めてだったので、門構えから一通り周りを見渡し、何故だか嬉しい気持ちになる。

ーここが、虎さんの通う学校…

地名の緑ヶ丘から付けられたこの緑ヶ丘高等学校では、大きく生い茂る桜の木が印象的だ。歴史ある門構えからは異様な存在感を感じられる。
今日に限って携帯を忘れてきてしまったので、門前にある木の麓に立ち、雪解けの中冷たい風を凌ぎながら遥はひとしきり待つのだった。



一方、虎は光達と靴箱がある一階へと階段を降っていた。
良之助は未だに課題プリントの手伝いを光に訴えているが、頑なに拒否をする光も何とも頑固だ。
靴を履き替え、校舎を出る。
遥に会おうと散々悩んだのだが、今日は辞めておこうと結論を出した。やはりまだ心の準備が追い付かない。
もし、逆に遥に突き放されるかもと考えると、前に進む足が止まるのだ。
その時。

「タイガー!」

甲高い女が自分を呼ぶ声がして、振り向いたのも束の間、腕を掴まれて体をすり付けられたのが判った。抱き付いた女は、虎から離れようとしない。

「ちょっと、タイガ今帰ろうとしたでしょ!私との約束忘れたの!?」

約束?と眉をしかめて記憶を辿ると、そんな事言った覚えはあるような無いような。以前に良之助の言う自暴自棄な時期に散々繋いだ約束の一部なのだろう。
本当、酷い野郎だ…と自分で自分が恥ずかしくなる。
だが、ほんの僅か気持ちを切り替えた虎にとっては、守れない約束な訳で。
申し訳なくも離すように言うが、女はこれでもかとがっしりとしがみついている。

「ずっっとまた遊べるの待ってたんだからね!絶対約束守ってよー!」

本人も気付かぬ凄い形相に一歩後ずさってしまい、一層強行突破するしかないと腕を振り回しつつ前進するが、女は離れずに付いてくる上に、手を絡めたりとスキンシップを求めてきた。
以前までの虎なら喜んでだったが、今はまた体が拒絶を示す。

「悪かったから、な?離せって、俺用事あるから」

フンッとそっぽを向き、聞こえないフリをする女に「諦めるだろ」と、もう無視を通す事に決めた。

そのまま校外を跨ぐ門へと徐々に向かっていく。

門を出た脇に居る遥は、過ぎ去る生徒達を一人一人見ながら虎を探していた。一方、そんな遥を不思議そうに緑ヶ丘の生徒は眺め去る。そんなに長くいる訳でもないのに、やたらと時間が長く感じられて、そわそわと目を忙しく動かしている。

高鳴る鼓動、全身が心臓になったのではないかと言う程に脈を打っていた。
こんなに胸が騒がしくなるのは、初めてかもしれない。

「あ、」

突如背後から発せられた掛け声に、遥は慌て振り向く。

ー虎さん!?


「あ、光さん!」

口をあんぐりと開けた光の背後から、続いて良之助、泰司と歩いてきて遥を見るや否や歩みを止めた。

「は、遥ちゃん。なんでここに?」

光は、驚きが隠せないのかなんだかあたふたしている。クリスマス以来に会うのだ、あの現場の目撃者でもある訳で気まずさもあるかもしれないと、遥は一息付いて答えた。



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