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※綱海高一・立向居中二 遠距離恋愛



会いに来たぜ、なんて、夢でも見ているのかと思ってしまった。彼は沖縄にいるはずで、ここは福岡で、お互い学校もあるはずで。話すのはメールか電話、会えるのは長期の休みに数日、それが自分達の遠距離恋愛だった。「どうして、綱海さん、」
「ユーレイでも見たような反応すんなよ!ったく、相変わらずだなあ」
そうあっけらかんと笑ったあとで、でさ、悪いんだけどおまえん家泊めてくんねえかな、とあっさり告げた。宿どうするかなんて忘れててよ、と。変わらない。思い立ったらすぐ行動に移すところも、あらゆる行動が俺の心臓に悪いところも。なぜ突然こちらに来てくれたのか、理由なんてあとから聞けばいい、そもそも理由なんてないかもしれない。ダメか?とこちらの表情を窺っている綱海さんが可笑しくて、「いいですよ」と言いながらぷっと吹き出してしまった。早速と俺よりも先に歩き出す綱海さんの髪は、少し伸びた気がする。
「綱海さん」
「んー?」
「手、繋いでもいいですか」
こちらを振り返りながら立ち止まる綱海さんの表情はきょとんとしていた。波止場近くで人通りがないとはいえ、馬鹿な申し出をしただろうか。だが一歩前を歩いていく綱海さんをつなぎとめておきたかった。並んで歩きたかった。そんなちっぽけな独占欲、ああやはり言わなければよかった、心の中で後悔していると、
「いいぜ」
に、と笑顔を浮かべて、綱海さんはその掌をこちらに向けた。
綱海さんの向こうにみえる夕暮れのあかさに目を細めた。その一瞬さえ惜しくて、はい、と返事をして慌てて手を握る。相変わらず高い体温、大きな掌はひどく安心する。俺はいつも綱海さんに力をもらってばかりだな、と思って、鼻の奥が少しつんとした。「サンキュな、立向居」と言ってくれたのはただ単に俺の家に泊まることについてかもしれないけれど、綱海さんが俺の手をぎゅっと握り返してくれたので、自意識過剰かなと思いつつ、俺にとってちょっと嬉しい解釈をすることにした。(握った綱海さんの手は、ほんの微かに震えていたので。)

03.夕暮れに手を繋ぐ
:110125


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