女の子を拾った。
正しくは、ウサギ耳の生えた女の子、だ。見た目十二、三歳の少女だった。驚いた拍子に「どうしたの」なんて声をかけてしまったのだが、「山から下りてきたの」と返事をしたものだから再び驚いた。山と畑に囲まれた封鎖感のあるド田舎なので、そういう微妙な現象がいつか起こるのではないかと昔から思ってはいたが、まさか本当に自分が遭遇するとは。とりあえず彼女は全裸だったので、誰かに見られる前に家に連れて帰ることにした。男一人のアパート暮らしだから問題はないし、たしかサイズを間違えて買ってしまって着れない服があったはずだ。女を連れ込むというよりは、捨て猫を保護するような感覚だった。
連れてきてみて分かったことは、簡単な会話は一通りできるということ、そして彼女は非常に肉を好むということだ。ひくひく鼻を動かして、ふらふらと台所に向かったかと思えば、晩飯にしようと思っていた牛肉、ウインナーやらミートボールやら、冷蔵庫を漁ってすべて平らげてしまった。ウサギは人参を食べるんじゃないのか。加工肉より生肉に喜んで食いついたり、食べる前にその肉を凝視しているのがどこか不気味だった。テレビに出てもおかしくない美少女なのにもったいないな、と思った。
そこではたと閃いた。
(この子、儲けられるんじゃねえか)
ウサギの耳と尾が体からちゃんと生えているのはすでに確かめた。会話もできる。何か芸があれば完璧かもしれない、そう考えてからは早かった。近くのスーパーに駆け込んで分厚い生肉を買ってくる。なけなしの金だが、これから稼げるはずだから心配ないだろう。
「食っていいぞ」
一口サイズに切った肉を食わせた。味を覚えさせた方が効率がいいだろうと思ったからだ。
「俺がこれから教えること、出来たらもっとやるからな」
ぱっと顔をあげたとき、なびいた髪が美しかった。この子は売れる。そう確信した。まかせとけよ、というように、立てた親指で自分の胸元をトントンと指す。きらきらと輝いている彼女の瞳は俺の顔をじいっと凝視していた。背筋が震えたのはきっとこれからやってくる華やかな生活に対する武者震いのようなものだろう。
早く芸を覚えさせなくては。少女の強い眼差しに些かたじろぎつつ、まずどのテレビ局に電話しようかと妄想を膨らませた。

02.甘い甘い御褒美
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