恋人として付き合うということに浮き足立つのは、やはり女子だけなのだろうな、と風丸は思った。俺は豪炎寺と付き合うことになった。男同士なので、さすがに公言はできず、二人だけの秘め事である。想いが通じ合ったときはそれはもう嬉しかったけれど、「付き合う」ということで何かが具体的に変わったようには思えなかった。
「付き合う、って言ってもさ、あんま変わんないよな、俺達」
「そうか?」
「だって今も学校だし、隠さなきゃだろ。普段とできること変わらないじゃないか」
「…………」

委員会を終えて、夕暮れに染まる校内を歩いていた。片付けをしていたら遅くなってしまい、教室にも廊下にも人の影はない。上履きが床を踏み締める音だけが響いている。二人きりだったせいで妙な意識をしてしまったのだろうか。付き合っていても特に変化がない、なんて、頭を過ぎったことを軽い気持ちで言ったのだが、豪炎寺は何か考え込んでいる。もしかしてまずいこと言ったかな、と顔を覗き込むと、
「風丸」
ぐい、と勢いよく身体を引き寄せられる。片腕で風丸の肩を抱き込んで、風丸の頭の回転が追いつかないまま、ちゅっと可愛らしい音を立ててキスをされた。

そしてぱっと顔が離される。風丸は、まず一拍遅れてキスをされた事実を認識する。そのことに頬を真っ赤に染める。それからようやく、辺りに人がいなかったかを確認した。普段は冷静な風丸の、順を追うように表情が変わる反応が新鮮で、豪炎寺は思わず吹き出した。
「な、にを、いきなり!学校だぞ!?」
「悪かった。でも、変化が欲しかったんだろう?」
あっさりと言ってのける豪炎寺に、風丸は顔じゅう赤く染めたまま口をぱくぱくとさせて、諦めたようにひとつ溜息をついてから俯いた。髪を雑に掻いて、「前言撤回」と呟いた。
「…積極的になった、よな、豪炎寺」
「そりゃあ、付き合ってるんだからな」
ぷ、と風丸が小さく笑う。豪炎寺も優しく微笑む。「帰るか」「ああ」
西日に照らされて、二人は再び歩き出す。付き合うことで何かが変わるのではない。変化する毎日を楽しむこと、それが付き合うということなのかもしれない。風丸はぼんやりと思った。




ぼくらのワルツ /101104

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