しんと静まり返った夜の闇に、しゃきんと柔らかく鋏がいれられる。比喩ではなく事実だった。しゃきん、しょき、しょき、最初はどこか怯えたように控えめに聞こえていた音が、だんだんと軽快なリズムになってくる。じょき。ひときわ大きく重い音が、左耳付近でしたときに、はっと意識が覚醒した。
「…あ、風丸さん、起きちゃったんですか」
暗闇の中でも朧げに視覚できる、己に覆い被さる影は、ずいぶんと見覚えがあった。見覚えがありすぎて、現実味がなかった。
「………みや、さか…?」
何をしてるんだ? そう問おうとした瞬間、ぱっと視界が開けた。ぱらぱらと何かが降ってくる感覚。左右を交互に見ると、いつも通り、長く伸びた浅縹色が枕に散っていた。異なっていたのは、それらがすべて、途中で切り離されていたことだ。
「僕気付いたんです。風丸さんは、どうして僕のことだけを見てくれないのか。それってきっと、他の人に邪魔されてるんですよね。風丸さんかっこいいから皆に人気で、優しいから皆とちゃんと付き合ってる。それで、風丸さんのこの綺麗な髪がなくなったら、寄ってくる人が減るんじゃないかなって。風丸さんの魅力はこれだけじゃないから、ぜんぜん減らないかもしれませんけど、それはその人たちが多少ちゃんと風丸さんを見てるってことですよね。まあ僕ほどではないですけど。その時はまた別のこと考えますから安心してくださいね。ああ、後ろの方、まだちゃんと切れてないんです、すぐ済むんで起き上がってもらってもいいですか?」

両目でも宮坂の表情は見えない。しゃき、鋏が一度空を切る音だけが、闇に滲んで消えた。




綺麗な鱗に憧れて /100729
(title:馬鹿

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