近い、と思った。豪炎寺にも俺にも、そのタイミングに関しては癖があるらしい。曰く俺は、目をぎゅうと閉じて、豪炎寺の名を呼ぶか、譫言のようにそれが近いと示唆するのだそうだ。癖というだけあって意識したことはないので、恥ずかしいことこの上ないのだが。して豪炎寺は、呼吸を軽く整えてから、俺の名前を呼ぶとか、髪を撫でるとか、優しく俺自身にふれてくる。無意識の気遣いなのだろう。この行為は、受け身の人間への負担があまりに大きすぎた。現に今も、すっかり酸素を取り込むことに必死な俺を見て、豪炎寺は苦笑し、へいきか、と前髪を耳にかけてくれた。汗で張り付いたところまでそうしてくれて、愛おしそうに俺の額を撫でる。ああ、この表情。胸がぎゅうとなるようで、それでいて熱くなる、感情が高揚する。俗っぽい言葉だが、そそられる、そう表現するのが的確な気がした。問いかけに頷いて返事をすると、ぐいと足が持ち上げられた。膝裏に豪炎寺の手を感じる。額に口づけが落ちて、いくぞ、と囁かれた。返事の代わりに豪炎寺の首元へ両腕をまわす。その瞬間に、下肢に埋め込まれたそれが、ずるりと引かれるのを感じた。貪欲すぎる若い身体は、あらゆるものを余すところなく快感として拾う。あ、と喉が引き攣った声をあげた、次の瞬間には、引かれたそれが先程よりも深いところまで穿たれる。電気が走ったようにびくっと震える身体に、豪炎寺の性器が追い打ちをかけている。すでに高められていた互いの感覚が互いを焼き切り、燻る間もなく限界を超えようとしていた。過ぎる快感に目をぎゅっと瞑る。
「ぁ、っご、えん、じ…っ」
「…風丸、」
豪炎寺の大きな掌が、俺の頬を撫でた。瞬間、臍の下あたりに、熱が渦巻くのを感じる。それがうねりとなったのだろう、律動を続ける豪炎寺自身が、微かに質量を増した。ひ、と情けない声が漏れる。絶頂はすぐそこだった。豪炎寺の腰が、引かれようとするのを感じる。
「待っ、て」
咄嗟に出た言葉だった。足を豪炎寺の下半身に絡ませると、豪炎寺が驚いたようにこちらを見つめた。
「いいから…、欲しい、んだ」
「風丸…?」
だから、なかにだして。
声にはならなかったが、その言葉は豪炎寺に伝わったようだった。「馬鹿」という呟きと、いっそう質量を増す性器が俺にも限界をもたらした。がつ、と最奥を突かれた、その瞬間に、意識が飛びそうになるほどの強い快感に襲われる。自分の性器から白く濁る体液が放たれるのを、自分のことではないように感じていた。全身が強張って、強く締め付けてしまった豪炎寺の性器が、どくん、と内部で脈打つ。直腸が熱く迸るもので満たされる。
下腹部がひどく熱い。

「…大丈夫か?」
繋がっていた部分が離れていく。熱を共有していたそこはすっかり馴染みあっていたので、もともと相容れない存在であるはずの部位がそこはかとない寂しさを訴える。ひくついたのが自分でも分かって、頬が熱くなった。「、大丈夫、だ」慌てて言った声は掠れていた。上体を起こし、己の精液で濡れる自分の腹部に触れる。
中に出されることによって体調を崩すことはある。だが、その体液が存在する本来の意義、それに対する心配は存在しないのだ。なぜなら俺は男だからだ。子を宿す能力を持たない性である俺の体内に、宿すための種を植え付けたところで、それが実を結ぶことは絶対的に有り得ないのが事実だった。俺たちがこんなにも好きあっていることは、何一つ形に残らない。残してはならない。それが何だか物悲しく感じて、今はただ、腹に残るこの熱さだけが愛おしかった。その辺りを撫でる俺を、豪炎寺が「無理するな」と言いながら、微かに怪訝そうな表情で見ていた。
熱が冷めはじめる前にはきっと、俺は眠ってしまえるだろう。意識しないままに、種は朽ちてゆく。証とならずに死んでゆく。俺は、俺たちは、ただただ刹那的な愛で生きていた。




現実はいつも無色に染まる /100614
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