孕む夢を見たことがある。

腹がやたらと膨れている。球状のなにかを詰めたかのような、奇妙な違和感がそこにはあった。
いのちの重み。軽いのかそうでないのか、違和感がありすぎて自分では分からない。これは本当に私の腹なのか。
ぱちり、と瞬きをする。
すると、場面が変わった。

辺りは闇だった。赤黒い闇。終わりのない闇。どこからか微かに、かすかに光が射していて、なにか管のようなものが照らされている。しかしそれも、管だということがかろうじて判断できる程度だった。私は目を細めて、その全貌を確かめようとした。
その管の先へと視線を走らせると、白っぽいものが蠢くのが見えた。ゆるやかな丘が、ゆるやかに、上下する。呼吸をしているように思えた。そのさらに上には、大きな歪な球が付いている。黒く大きな水晶がふたつ。その下にあるひとつの空洞は、先ほどの丘の両脇から生えた枝の先端を咥えるようにしていた。
黒い水晶に乗った怪しげな光が、こちらを向くように動く。
目が合った。
ここは、私の腹の中か。

しゃぶっていた、まだ派生したての指を口から引き抜いて、その空洞がにたりと歪む。笑っている。目が、横倒しになった三日月のようになる。何故、わらっているの。
あたりに散った空気を伝うように、けれど音ではなく感覚で、声が私の脳へ入り込んでくる。
―――おかあさん。
―――おかあさんの、おふとんがふかふかしてて、あったかい。
うれしい。――ありがとう。

言われてやっと、私が足をつけている地が、柔らかな温もりを纏っていたことに気付く。踏み締めると、ふかり、と可愛らしい弾力がかえってくる。闇はもう無く、そこはもう赤のような桃のような朱のような、温かい血流の照らすゆりかごだった。
狭いゆりかごの中で体を丸めて眠るその子の、腹部に伸びた管が収縮している。与えられた栄養をじっくり味わうように、その幸せを実感するように、うっとりと目を閉じる。それにシンクロするように、私の意識も閉じた。



腹の痛みで目が覚めた。
予感がする。きっと今日、きている。なっている。

腹の奥底で体が勝手に育てた重みが、体内から抜け出た証の深紅。予感は的中した。夢とは違う、真っ平の腹をさすり、あのゆりかごを思い出す。あの子のために必要なゆりかご。けれど今は不要なゆりかご。
勿体ないな、と思うけれど、そんなことを思ったのは今回が初めてで自分が驚いた。
何度でも育ててあげる。古くなったら棄てるから、きれいであたらしくて、あったかくてふかふかのゆりかごを何度でも用意してあげるから。

だから、また私にあいにきて。




ぬかるみの中で祈る /090828
(title:たかい)

別題:循環のゆりかご

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