環境が変わると寝付けない体質が、やはりこの状況でも祟ってしまった。世界へ向けてハードな練習を重ねている毎日、しっかり眠って疲れをリセットしなければならない、とは重々承知している。風丸はごろごろと寝返りをうちながら、訪れる気配のない眠気をどうにか誘おうと必死で瞼を閉じ続ける。だが視界が闇であるせいで、様々なことが頭を過ぎり、逆に脳が冴えてしまっていた。どうしよう、とひとつ息を吐いたとき、ひとりの人物が浮かんできた。
(………豪炎寺、)
瞼の裏にぼんやりと浮かぶ彼の姿を見て、風丸の中にひとつの案が生まれた。豪炎寺に会えば、落ち着くのではないだろうか。リラックスできたら、眠気もやってくるかもしれない。今更恥じらいなんか抱いていても仕方ないし、寝付けないまま明日の練習に影響が出るより、今このタイミングで解決できそうなことはしたほうがいい。風丸はそう判断した。
決めてからは早かった。会いたい、とそう思った意志のまま、そろそろと布団から抜け出た。



「……で、俺のところに来たわけか」
夜中に突然訪れたというのに、豪炎寺は少し驚いたような表情を見せただけだった。むしろ部屋へ来るなり「ごめん」と眉尻を下げた風丸を見て、「平気だ、入れよ」と柔らかく微笑んだ。光源は月明かりのみの狭い空間、二人はベッドに腰掛けて、小声でほんの少しの会話を楽しむ。

「……ありがとな、豪炎寺。やっぱ、お前の声聞いたら落ち着いたよ」
苦笑いを混ぜながら、風丸は静かに立ち上がろうとした。これ以上は豪炎寺に悪い、と判断しての行動なのだが、当の本人がそれを許さなかった。おやすみと言って細められた目が、立ち去ろうとした自分の腕を掴まれたことによって見開かれる。「どうし、」反論すら許さなかった。豪炎寺はそのまま風丸の腕をひいて、少し高い位置にあるその唇を奪う。あまり深追いはせずに、風丸の唇を一舐めして豪炎寺の顔は離れていった。
「えっ…ちょ、ごうえん、」
「……眠くなったのか?」
「…なってない…けど、豪炎寺に悪いなって…」
「そんな気遣いいらないだろ」
項のあたりに手を回して、豪炎寺は風丸の耳元に口を寄せた。
「風丸」
少し低めに意識した声で名前を呼べば、風丸はぶるっと肩を震わせて、再びその場に座り込んでしまう。
「帰さない」
言ったあとで、何だか安っぽい恋愛ドラマみたいだ、と若干の自己嫌悪におそわれた。それを誤魔化したかったのもあり、豪炎寺は些か乱暴に風丸を押し倒した。



唾液で濡らしておいた指を風丸の後孔から引き抜くと、別の体液によってぬらぬらと光っていた。必死で声を抑えて、ぎゅっと閉じられた瞳からは大粒の涙を零して。それでも快楽を追ってしまう風丸の姿はどこか滑稽で、普段は豪炎寺の奥底に眠っているはずの、ある嗜好が擽られてしまう。さんざん焦らしてさんざん鳴かせて、豪炎寺は耐え切れず自身を取り出した。煽られていたのは豪炎寺であった。
「ァあ、っは…も、豪炎寺…!」
「風丸」
ふるふると首を横に振りながら、両手はその口を覆い、下にある手の甲を噛んでいた。これ以上の快楽が与えられるのも、それによって自分が乱れてしまうのも怖いのだろう。大丈夫だ、と言うように優しく微笑んだ豪炎寺は、風丸の両手を取った。
「ふぁ…あ、や、やだ…豪炎寺…」
「傷になるだろう」
「だ、って…、声、聞かれたら…っ」
そうだな、と豪炎寺は思う。風丸のこの声を、自分以外の誰かが聞くのは嫌だった。一瞬だけ考えて、豪炎寺は閃いた。そのまま、深く唇を重ね合わせる。強引に舌を割り込ませながら、その下肢は、風丸の入口を割った。
「───……!! ん、んんッ!」
くぐもった声は、たしかに部屋に響くことはなかった。挿入時の衝撃をやりすごして、豪炎寺は律動を始める。風丸は眉を寄せて涙を零して、口腔ではひっきりなしに声にならない声をあげている。苦しいだろうと思って気まぐれに口を離すと、やはり抑えられていない嬌声が漏れた。
「っひぁ、あ、あっ! ご、豪炎寺…ッ、」
すると風丸ははっとしたように、また口を塞ごうとする。だめだ、と優しく囁いて手をとると、半ば自棄になったような勢いで風丸からキスをしてきた。豪炎寺が驚きで目を丸くしていると、風丸がそっと上目で見つめてくる。
「おねが…、も、堪えられない…!」
「…っ、あまり煽るな」
ぐっとキスを深くして、腰を穿つ動きもより奥へ。風丸のびくびくと震える内股を感じて、絶頂が近いのだと悟った。律動を早め、風丸の性器に触れ、一気に追い上げる。
「ふ…っ、う、んん……ッ!!」
「……、っく…!」
口を塞いだまま最奥を突けば、風丸は勢いよく射精した。口が開いていれば甲高い嬌声になったであろう声を発して、徐々に体が弛緩していく。搾り取るように脈打つ中に誘われて、豪炎寺も限界を超えた。ぎりぎりのところで性器を抜いて、風丸の腹にその欲を吐き出した。
口を離し、互いに荒くなった息を整えていると、風丸が薄く目を開けてこちらを見た。汗で張り付いた前髪を耳にかけてやる。その重そうな瞼からは風丸が眠くなったことが見て取れて、「寝ていいぞ」と豪炎寺は告げた。ごめん、と掠れた声で言って、風丸はすっと眠りに落ちる。事後処理をし、服を着せ、愛おしむように風丸の額を撫でる豪炎寺を、煌々と光る月だけが見ていた。


翌朝、風丸は豪炎寺に抱き込まれた状態で目を覚ました。枕元にある時計に目をやると、かなり早い時間だった。集合まで、身支度の時間を見積もってもだいぶ余裕がある。
身体にはさほど疲労感を感じない。豪炎寺が抱き方にも気を遣ってくれたのだろう。寝顔を眺めて、風丸はひとり、穏やかな感情に浸る。
(やっぱり豪炎寺のとこ、来てよかった、な)
それはたしかな幸福だった。頬を緩めて再び微睡みに落ちようとする風丸を、朝日だけが見守っている。




芯から焦がれた夜に咲く /100406
(title:クロエ

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