痛かったら言ってね。木野は豪炎寺に微笑みかけながら、その足元に跪いた。木野の手にはテーピング用のテープが握られていて、慣れた手つきで豪炎寺の足首が固定されていく。「珍しいよね、豪炎寺くんがケガって」すこし時間がかかるのだろう、木野はぽつりと呟くように話しかけた。目の前では他の部員たちが駆け回っているし、隣のベンチでも音無がグラウンドのほうへ積極的に声を出している(雷門は相変わらず腕を組んで部員たちを見守っているだけである、)というのに、木野の声は不思議とよく通るのだった。 「…俺の不注意だった」 「ううん、やっぱり豪炎寺くん、シュートの数が多いから」 話しながらも、てきぱきと手元の作業は進められている。念のため二、三日は部活休んで、そしたらもう大丈夫だね、と木野は告げた。「軽く挫いただけで良かった」ぽん、と膝を叩かれる。捻挫とまでは言わないまでの負傷だったというのに、いつの間にかテーピングがしっかりと施されていて、その手際のよさに豪炎寺は深く感心した。悪いな、と言えば木野はううん全然、といつものように謙虚な姿勢を見せる。木野から溢れ出る優しさというか、女性らしい雰囲気はいつだってそこにあって、その愛は彼女と関わるすべての人に分け隔てなく与えられる。豪炎寺は口数も少なく、そもそも人付き合いがあまり上手くはなかったから、木野には少なからず尊敬の念があった。マネージャーとしても、特別な感情ではなく異性としても。 「円堂くんも、昔からあんまりケガはしなかったなぁ。上手い人はやっぱり、そういうとこもしっかりしてるのよね」 キーパーだから、擦り傷の方が多かったし。用具を救急箱へ仕舞いながらほんの微かに饒舌になる木野の、そのタイミングを豪炎寺は見落とさなかった。それが何故かも見抜いた彼は、ああ、と妙に納得する。それは女性を美しくする、とテレビだか何かで聞いたことがあるが、本当だったのだな、と豪炎寺はどこかこそばゆく感じていた。 (…俺が雷門に来るずっと前から、なんだろうな) 豪炎寺が木野に目をやれば、木野は柔らかい表情でグラウンドを眺めていた。その視線を辿ると、それはゴールへ向けられている、ように見える。木野の優しさは彼女元来のものだろうが、それがさらに色を伴って滲み出ているような、そんな気がした。目に見えないものにすら色をつけるそれが、木野が円堂に対して寄せる想いなのだろう。そしてそれが尊重されるべきものに感じて、豪炎寺は一言「良いな」と漏らす。木野の肩に手を置きベンチから立ち上がると、どうやら今の声は聞き取れなかったようで、こちらを見上げている。なあに、という問い掛けは適当に濁して、今日の練習は先にあがることにした。 「帰るの?」 「ああ、みんなには悪いが」 円堂に伝えておいてくれるか? すると木野はいつも通りの笑顔で頷いて、お大事にね、と手を振る。その表情を見た豪炎寺からはとても自然な笑顔が零れた。 やさしさは愛の色 /100311 (title:シャンテ) あくまで書きたかったのは円堂←秋 |