「何をしている」
震動する土を伝って、誰かが近付いていることは知っていた。頭上から言葉が降ってくるのと、ふっと視界が影になるのは同時だった。寝そべる僕を覗き込むのが誰かなんて顔を見なくても分かっていたから、僕はそのまま青く広がる空を見ていた。今日は空が高い。雲が、あんなにも、遠い。
僕は神だ。ならば何故僕は、あの空にいないのだ。
一般の人間とは違う僕が、何故一般の人間の世界にいるのだろう。手の届かない天に焦がれること、それ自体愚かなことに思えた。僕には神の翼があるけれど、僕に与えられた使命をもし遂行できなかったらその時は、きっとこの翼をもぎ取られてしまうだろう。そしてその翼があるにも関わらず、僕は地に足をつけて立っている。こうして背中を押し潰して、無防備に寝転がることもできる。翼を持つ意味も、神を名乗る資格も、すべて僕に与えられた力だ。ならば、それだけが良かった。人間と同等である部分を持ちたくなかった。何故、僕はここにいるのだ。
「僕たちの世界はどこにあるのだろう」
分からなかった。僕がいるべき場所は、こんなところではないはずだ。羽のいくつかを燃やしてでも、あの空のその向こうへと行き着きたい。そこが果たして神々の住まう世界なのかどうかも分からなかったけれど、僕が僕として生きていられる、そんな世界に存在していたかった。
「…もう時間だからな」
いつまでも彼に対しての反応を示さない僕に痺れを切らしたのだろう、彼はそのままグラウンドから去って行った。時間とは恐らく、総帥から与えられるあの聖水を摂取しなければならないということだろう。あれが僕たちに多大なる力をもたらすのは自覚しているけれど、僕はあれを飲む以前の僕をよく思い出せなくなっていた。ただ、自分の在り処を示してほしいというこの願望は、以前の僕が強く抱いていた、ように思う。あれを飲み続ければ、いつか、僕の世界に辿り着けるのだろうか。答えは総帥と、与えられた使命を果たした僕自身が教えてくれるはずだ。そう信じて、僕は今日もあの聖水を体内に取り込むのだ。




エーテルの在処 /100304
(title:クロエ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -