世間体とか、社会とか、もっと細かく言えば学校とか部活とか。そういうものに縛られていることで俺達が苦しい思いをするならば、そんなもの要らなかった。子供である俺達はそれらに守られている、ということも知りながら、そう思うこと自体が、まだまだ子供であったのだ。

「…別れたくない、よ、俺」
公園にある、いくつも穴があいた大きな壷のような遊具の中で、風丸は体を震わせていた。寒さと、涙と、これからのことを考えた結果であろう。無言でその肩を抱き寄せても、風丸は泣き止まない。
「別れなければいい」
「……でも、」
「俺はそんな気は無い」
第一、他人と恋人として付き合っているということをずっと隠し通せるわけがなかったのだ。男同士であるから、非難めいた声が聞こえるだけ。好き合っている事実に第三者は関係ないと、豪炎寺は思っていた。そんなものを気にしてこの関係を終わらせるなどありえないと。
「…だめなんだよ…豪炎寺…」
ひく、としゃくりあげながら訴える風丸は、声の震えを抑えようとして逆に声帯がぐらぐらになっていた。多少揺らいでいても聞き取れるのは、風丸の声が透き通っているからだろうな、と今は関係ないことを思った。
「ふつうは…だめなんだ…」
風丸は常識人であり、至って普通の思考を持ち合わせている。それは豪炎寺も同じであったが、それにも勝る感情は少し異なっていたようだった。何だかんだで、きっと自分の方が正常ではないのだろう、と豪炎寺は思う。同性に惹かれるのも、その相手の涙にすら欲情するのも、きっと。同時に、それを守りたい、とも思った。
「………行こう、風丸」
「…、え……?」
風丸の手を握って、豪炎寺が勢いよく立ち上がる。うわ、とちいさく驚きつつも、手を引かれるまま風丸も腰を上げた。中学生の体には些か狭い出入口をくぐり抜けて、二人は遊具から外へと飛び出した。そのまま豪炎寺は走り出す。風丸の手をしっかりと握ったまま、人気もなく暗い夜道を駆ける。力強いシュートを繰り出す足が地を踏み締め、その後ろでは美しい水色が風を切って靡いている。
豪炎寺にも、どうすればいいか分からなかったのだ。立ち向かえば、それだけ風丸を傷付けてしまう気がして。逃げたわけじゃない。考える時間がほしいだけ。どこへ行こうとしているのか分からないまま、風丸もそれに対して何ひとつ問わないまま、ただ、走った。刺さる夜風が、自分たちを咎めている気がした。




かえれないふたり /100210
(title:馬鹿

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