ず、と音が鳴ると、顔を横にして俯せた風丸の頬が擦れた。痛い、と訴える余裕もないらしい。ぐずぐずに解けた後ろが、微かにきゅうと締まる。豪炎寺が、それに応えるように動くのを少しばかり速めると、風丸の腰が大きく震えて逃げを打った。高く上げさせたそこは豪炎寺が掴んでいたから、実際には叶わなかったのだけれど。
「ひ、ィあ…、ごうえんじ…!」
「何だ」
「……ッ、もう…」
風丸の言いたいことは分かっている、分かった上で豪炎寺はそんな返事をする。風丸も限界のようで、責めるような強請るような目線を豪炎寺へ向けたが、風丸の体全体がぶるりと震えたので、豪炎寺は動くのをやめた。ひどく緩慢に性器を行き来させると、中はもっと強くしろと言いたげにいやらしく蠢いている。無意識に煽る風丸の姿に、豪炎寺の腰も震えた。
「なんで…、っぅ…」
「ちゃんと言ってくれ、風丸」
達しそうなのである。それを的確に把握したタイミングで、豪炎寺は動きを止めていた。いつだって優しく抱き抱かれるこの行為であったが、たまにはいいだろう、という嗜好のひとつのつもりであった。風丸の意志を、見たい。それだけだった。これだけ風丸の痴態を見せられれば豪炎寺もかなり限界が近かったのだが、そこは互いの駆け引きだった。意志を言葉にしてほしい豪炎寺と、恥ずかしさのあまり口にできない風丸と。ふたりの熱は上がりきっている。

「っ! ふ…ぁあっ…!」
再び腰をゆるゆると動かす。過ぎた快感にか、無言の催促にか、風丸の瞳が見開かれたあと、ぐっと潤んだ。風丸、と名前を呼ぶと、大粒の涙が彼の頬を伝った。喘ぐ声に嗚咽が混じる。
「ひぐ…っ、うう…」
「…泣くな、」
しゃくりあげるのに合わせて、中がじわりと豪炎寺を締め上げる。泣かせるつもりは無かったし、どういう状況であれ涙は心を痛めるものだった。そういう真面目な感情があったのだが、微かに眉を寄せて再び風丸の名前を呼ぶと、無意識に焦るような色が混ざってしまった。それに気付いてかどうかは分からなかったが、橙の瞳がこちらを振り返る。
「……しゅ、ぅや…」
「、!」
体勢のせいで自然と上目遣いになる涙ぐんだ目線に、顔を動かしたせいでぱらぱらと伝い落ちる前髪に、そして掠れながらも名を呼ぶ、甘い声に。風丸の何もかもが豪炎寺の欲を掻き立てて、ずんと重くなる腰に、まずい、と思ったとき、

「……っ、も、達かせて……」

それだけ言って、風丸は羞恥のあまり目をぎゅっと瞑った。ぼろりと溢れ出た涙を見て、豪炎寺は思わず風丸の体を反転させる。中を抉る性器の角度が変わったことで、風丸が悲鳴のような嬌声をあげた。
「ひっ、あ、しゅう…!」
「……好きなだけ達かせてやる」
仰向けになった風丸を抱きしめた。より密着した互いの体と、近くなった顔と、二人は自然と唇を重ねていた。豪炎寺から顔を離し、ふ、と微笑むのと同時に、下半身がぐっと最奥まで押し込められる。
「一緒に、な…っ」
「はっ、あ、あっ、あぁッ!」
そのまま、風丸を追い上げるように強く腰を打ち付けてやれば、絶頂はあっという間だった。待ち望んだ強い刺激を得て、二人はほぼ同時に果てた。



「豪炎寺はさあ」
むすっとしたままの風丸の頭を撫でる。こういう時、なんか性格変わるよな、なんて拗ねた声色で言うのに、腕枕も受け入れて豪炎寺にすっぽり抱き込まれているあたりが、どことなく矛盾していておかしかった。豪炎寺は思わず吹き出してしまう。
「かわいいな、風丸」
「っ…な、何なんだよ!」
嬉しくないぞ、と言いつつ真っ赤に頬を染める風丸の目元にキスをする。涙はいつの間にか乾ききっていた。




欲しかったのは僕のほう /100206

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