立向居は、ただまっすぐにこちらを見つめてくる。話しているあいだ、目を逸らすことはない。そのまっすぐさにも惚れたわけで、その瞳が好きなわけで。なんとなくそれをよく見てみたくなって、ぐいと頬を両手で挟み、覗き込んでみた。 「わ、な、なんですか」 「いやあ」 やっぱ綺麗な目ぇしてんなー。妙に間延びした綱海の声に、立向居は一瞬目を丸くしたあと、思わず吹き出した。 「どうしたんですか、綱海さん」 「べつに。見たくなっただけ」 柔らかく笑いながらも逸らされない瞳を、負けじと見つめかえす。じいっと眺めていると、光が入り込んで奥深くまで色が広がっていることに気付く。(宝石みてえ、)さんさんと陽の光が降り注ぐ海面を、潜った水中から眺める、あの輝きと似ていると思った。 恥ずかしいですよ、と訴えられたので「悪り」と謝罪しつつ、ぱっと手と顔を離す。そんなに俺の目見るのが楽しいですか?と苦笑と照れ混じりで問われるのに、綱海は真顔で頷いた。すると立向居は再び くすりと笑ったあとで、自分がされたのと同じように、綱海の頬を両手で包んだ。 「俺も、ですけどね」 少し背伸びをしたと分かるのと、声が聞こえるのは同時だった。ふいに近付いた立向居の顔に、反射的に瞼をぎゅっと閉じてしまった。ぺろ、という可愛らしい音と、瞼を這う生温い感触。 「あ、目つぶっちゃダメですよ」 立向居の舌だ、とは言われて気付いた。お前、いきなり何するんだよ!と綱海は慌てて立向居の体を剥がす。ぺろりと唇を舐める立向居はさながら犬だったけれど、妙な艶めかしさがあった。海を湛えた純粋な瞳が、今は捕食者の色を浮かべている。さすがに、綱海もぞくりとした。 「綱海さんの目も、何だかおいしそうですよね」 「も、ってなあ、オレそういうつもりで見てねえし!」 にこ、と冗談なのか本気なのか判断できない、無垢な表情で笑う。幼いその笑顔は、やはり真っ直ぐで、きらきらとしていた。 瑠璃色の瞳 /100121 (title:落日) ちなみに文字色→#1e50a2 |