綱海さん、と名前を呼ぶ声はひどく震えて、今にも泣き出しそうだった。
「おれ、どうしたら」
肩を掴んでくる手には力が込められている。ぎり、と強さを増す指先がユニフォームに食い込んで、肌がぴりぴりと痛んだ。
「綱海さんが、好きなんです、おれ、」
立向居は膝立ちで俺は地面に尻をついているから、普段は上から見ているその顔を今は俺が見上げている。瞳からぼろぼろとこぼれた涙が、俺の腹のあたりに落ちた。
「きもちわるいですよね。おれ、男なのに」
顔をあげたその表情は、辛そうにはにかんでいた。立向居は必死に自分の想いを打ち明けてくれているというのに、こんな表情をさせてしまった。胸がちり、と悲鳴をあげる。
「でも、だめなんです。好きなんです、綱海さん、」
どうしたらいいか分からないんです、とぎゅっと目を瞑ると、溢れた涙が再び落ちる。その立向居の表情が堪らなくて、思わず抱きしめていた。
「つなみさ、」
「俺だって分かんねえよ」
姿勢が辛いのか、立向居は身を捩ったけれど、それすら許さないとでもいうように更に力を込めた。耳元で再び聞こえた綱海さん、という呟きは、やはり震えていた。

「俺だって、男好きになるのなんか初めてだ」
自分の声も震えてしまった気がする。緊張しているのだ。この未知の感覚、この震えは、恋をしているためなのだろうか。




僕の心に芽吹いたもの /100104
(title:方法論

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