「一応、俺のがサッカー歴長いんだけど」
しまったと思った時には遅かった。発してしまった言葉は、もう無かったことにはできない。少しの苛立ちが紡いだそれは、見事に相手に刺さってしまったようだった。
「……ごめん、半田」
風丸の隻眼が揺れる。少し俯いたせいで前髪がぱらぱらと耳から落ちて、隠されているもう片方の瞳が見える。少し、どきりとした。
「俺、半田の気持ちとか考えずに」
「だから、それはいいんだって」
やはり苛立ちが募る。風丸の優しさが、俺には辛いものでしかなかった。今だってアドバイスをくれただけなのに、「分かるか?」という確認の一言を聞いただけで、俺のささくれ立った触覚が引っ掛かる。分かるに決まっている、俺の方がはるかに長くサッカーをやってきているのだから。それなのに、風丸はすいすいと俺の前を走っていくから。ポジションは違うけれど、どんどん上手くなる風丸のプレーは、何故か俺を苛々とさせる。醜い感情だということは、何となく分かっていた。
「半田は、一年のころからサッカー部だったよな」
「え? ああ、うん」
「そしたら俺は後輩みたいなものだもんな…」
「え、風丸?」
「悪かった。俺、半田にも認めてもらえるように、もっと頑張るから」

やはりいらっとした。そういうことじゃないんだって、とわざわざ反論する気も失せてしまって、そのまま俺は振り返って練習を再開する。何なのだろう、彼は俺に何を求めているのだろう。俺も、風丸に何を求めているのだろう。この苛立ちも、そこに隠れている何か別の感情も、暴いてしまうことに本能的な恐怖を感じた。そのほつれた糸を、風丸がつるつると引っ張っているような気もしたのだった。俺は、無意識に逃げたのかもしれない。




ほつれてゆくような /100104
(title:けしからん)

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