そして男の子は、奇跡の復活を遂げ、仲間のもとへ再びやってくるのでした。男の子と仲間たちは、たいそう喜びましたとさ。おしまい。そう淡々と語る声は紛れもなく、幼なじみである一之瀬のもので。俺の部屋に上がり込んで俺の背中を背もたれにして、面白い話してあげようか、なんて突然切り出すから何かと思えば、それはどう聞いても一之瀬自身の話だった。男の子イコール一之瀬、仲間たちイコール雷門のみんな、だろう。
一之瀬にはこういう不思議なところがある。今だってそうだ。彼には彼の見ている世界があって、そこが綺麗であるなら周囲はさほど気にしない。眠たければ寝るし食べたければ食べる。話したくなったから話す。それは土門相手だからだよ、と言われたこともあるがよく分からない。俺も、一之瀬ならいいか、と思えるレベルで親しいのは確かだが。
「覚えてる?土門」
そしてやはり唐突に話題が変わる。主語がないのはよくあることだった。が、脈絡がなさすぎて今回ばかりは何のことか分からない。今の話のことも含めて、何が、ととりあえず聞き返しておく。
「俺の命日なんだ、今日」
むかしのね。先程の話を語っていたときと何ら変わりはない、淡々とした声色で一之瀬は告げた。無意識に鼓動が早くなるのが分かる。そんな、そんなこと。
「忘れるわけ、ないだろ」
必死で絞り出したけれど、少し掠れてしまった。一之瀬の死は(まあ嘘だったわけだが)、あの頃の俺にどれだけショックを与えたか、きっとこいつは分かっていない。子供だったけれど、だからこそ鮮烈で、忘れたくても忘れられなかった。今でこそ一之瀬は俺の隣にいるけれど。記憶なんて、そう簡単に消えるものじゃない。
「土門ならそう言うと思った」
少し安堵の色を浮かべて一之瀬は言う。目を細めて微笑んでいるのだろうな、と思う。よく俺と二人でいるときに向ける笑顔、その時と話す調子が似ていた。
「俺もさ。あの頃の自分は実際殺しちゃったくらいだから、辛かったんだよ。あの頃の俺を、思い出したくもなかったんだよ。でも、土門にも秋にも、雷門のみんなにも会えてさ、俺の居場所がちゃんとあって。俺、あの頃の俺のこと、ちゃんと見れるようになったんだ」
今だってほら、話せてるだろ? 背にかかっていた一之瀬の重みが消える。同時に視線を感じたので振り返ってみれば、一之瀬も同じように俺のことを見ていて、視線がかち合った。
「やっと、ほんとの意味で生き返れたと思う。俺」
不思議な感情がむくむくとわいた。お前は最初から死んでない、と言いたかったけれど、サッカーが出来なくなった自分を殺したくなるまでの、一之瀬のサッカーに対する情熱を知っているから、やはり言葉にはならない。分かっているのは、どっちにしろ一之瀬は俺にとって大きすぎる存在だということだ。うまくまとまってくれない俺の色々な思いを知ってか知らずか、「俺やっぱ土門と親友で良かった」なんて一之瀬がしみじみ言うものだから、俺もそう思うよ、と素直な気持ちを述べる。感情をまっすぐぶつけてくる一之瀬を、しみじみ羨ましいと思った。




星になった少年の話 /100102
(title:レプリカ)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -