フィールドにいるのは二人きり。影が長く伸びる時間帯、ゴールポストに蹴り込まれたボールの数は知れない。そろそろ終わりにすっか、という一声が練習を締める。

「お疲れさん、立向居!」
ゴールへと駆け寄る綱海が、立向居の肩を叩いた。汗を垂らし息を切らす立向居は見るからに疲れていても、ありがとうございました、と健気に笑顔を向ける。くしゃりと立向居の頭を撫でれば、褒められていることが嬉しいのだろう、頬が微かに赤く染まる。そんな素直な反応が可愛くて、綱海は好きだった。
「ん、」
乱れた前髪の下、無防備な額にキスをする。ぼっと発火したように顔を真っ赤に染め上げてうろたえる立向居は、つつつつなみさん!と落ち着かない。悪い、なんかしたくなって。と素直に打ち明けると、立向居の瞳に一瞬真面目な輝きが灯った。
「…綱海さん、目…閉じてもらえます、か」
「ん? なんだ」
「お、俺からも、したい…です…っ」
まるで世紀の大告白でもするかのように恥ずかしそうに、けれど意を決した表情で。立向居の挙動はいつだって全力で、素直で、だからこそ綱海も同じようにそれを受けたくなる。

「いいぜ」
すう、と綱海の瞼が降ろされた。髪と同じ色の睫毛が夕陽に反射している。立向居は直立したままの綱海の両腕をやさしく掴み、吸い込まれるように踵を持ち上げた。
「………っ、」
崩れそうになるバランスを爪先で保ちながら、綱海の形良い唇に自分のそれを押し付ける。一瞬触れるのが精一杯で、ちゅ、と恥ずかしいくらいの音を残し、互いの顔は離れていった。


「……う…綱海さん、」
「へへ、サンキュな、立向居」
拙すぎるキスも、優しく受け止めて。少し照れたように笑う綱海は、肩ほどまでの背丈の愛しい後輩を抱き込んだ。帰るか、と立向居の背中をひと撫ですれば、はい、と掠れる声で頷く。

「あっあの…、綱海さん!」
立向居は前を歩く綱海を見上げる。長く伸びた影すらもその差は歴然としていて、やはり物理的な距離が遠いのだと実感した。
「どした、立向居」
「……いえ…やっぱり、何でもない、です」
「そーか?」

実は先程のキスの時、微かだが綱海が屈んでくれていたことを知っていた。綱海は年上であるし自分も生まれつき小柄なため、仕方が無い事と言えばそれまでなのだが、それでも。

(…次こそは…屈まないで貰わずにするぞ…!)

変なやつ、とからからと笑う綱海をよそに、立向居はささやかな決心をするのだった。





背伸びをしたいお年頃 /091228

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